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同じ土俵で論じるな。 

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小関順二

小関順二Junji Koseki

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2007/09/10 00:00

同じ土俵で論じるな。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

 社会人野球の大舞台、都市対抗は9月4日、東芝の優勝で幕を閉じた。この東芝が最も苦戦したのが2回戦のNTT信越硬式野球クラブ。名称でわかるように、企業母体を持たないクラブチームである。7回表が終了した時点で1対3とリードされ、相手投手は1回戦で強豪の日本通運を4回以降無失点に抑えた好投手、阿部正大(TDK千曲川からの補強選手)。東芝は負けたなと僕は思ったし、多くの人もそう思ったに違いない。

 試合が大きく動いたのは7回裏。無死一、三塁の好機に3番渡部英紀(三菱重工横浜硬式野球クラブからの補強)が三塁ゴロ。1点失ってもいいという守備陣形を敷いていたNTT信越クラブは三塁ランナーの生還には目もくれず、5−4−3の併殺プレーを完成させた。1点差になったとはいえ、この守りを見てNTT信越クラブの勝利はさらに強固になったと感じた。

 しかし、2死ランナーなしの重苦しい空気をバットひと振りで払いのけたのが4番西郷泰之(三菱ふそう川崎からの補強)だった。何とライトスタンドに同点ホームランを放つ。そして10回裏には右中間スタンドにサヨナラホームランを放ち、東芝を勝利に導くという破天荒な活躍ぶりを見せるのである。

 決勝のJR東日本戦では1回表、無死満塁という好機で打席が回り、先制の満塁ホームラン。JR東日本各選手の頭の中には、それまでの戦い方から「東芝強し」というイメージが出来上がっている。それを西郷の満塁ホームランは確固としたものにした。

 運よく僕はこの3本のホームランをバックネット裏から見ることができた。どれも相手に致命的なダメージを負わせる素晴らしい一撃だった。決勝戦の試合前、両軍メンバーが一塁と三塁のライン上に並び、スターティングメンバーの名前をアナウンスされるのだが、このとき、東芝応援団から最も大きな拍手をされたのが補強の西郷がアナウンスされたときだった。ファンはそれまでのチームに対する貢献をしっかり見ていたのである。

 当然、最優秀賞の「橋戸賞」は西郷のものだと思った。打率.381、打点8、本塁打3は、打率こそ首位打者に輝いた平馬淳(東芝)の.611には及ばないが、十分MVPの価値がある。しかし橋戸賞を獲得したのは磯村秀人(東芝)だった。準決勝まで防御率0.00と鉄壁のピッチングを繰り広げた磯村の受賞に文句はない。しかし、最も強い印象を残したのは間違いなく西郷である。

 翌日の毎日新聞を見ていささか拍子抜けした。賞としてはかつての名選手の名が冠せられた「橋戸賞」「久慈賞」「小野賞」に及ばない「打撃賞」にとどまったからである。

 都市対抗の開催には一切の協力関係を持たない日刊スポーツ紙は、翌日の6面で都市対抗の決勝戦に触れ、西郷の活躍を一番大きく取り上げた。それでも賞の序列で言えば4番目なのである。

 プロ野球でもそう思うのだが、投手と打者の貢献を同じ土俵の中で論じるのは間違いだと思う。投手のMVPと打者(野手)のMVPを設定すればいいのである。投手部門のMVP・橋戸賞が磯村、野手部門のMVP・久慈賞が西郷なら文句は一切なかった。

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