EURO2008 最前線BACK NUMBER
スペイン優勝が示したもの。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byTakuya Sugiyama
posted2008/07/01 00:00
決勝戦が終わって、スタジアムのメディアセンターを出たのは夜中の2時半。地下鉄はもう終わっていた。
宿まで歩いた道は真っ暗な森林公園を突っ切るもので、やや怖い。だが、センターの女性職員が「私も歩く」といって教えてくれたのだから、あれで危険はないのだろう。
振り返ってみると、今回のユーロは至るところでセキュリティとホスピタリティが感じられる、個人的にはとても居心地の良い大会だった。
試合開催地すべてを回ったわけではないが、どこへ行っても漂う空気は平和。試合前の街やスタジアムはさすがに騒がしかったけれど、それがサッカーである。嫌な気持ちはしなかった。翌日、ファンの暴力沙汰が報じられたときは、同じ町にいたこちらが驚いたぐらいだ。
試合もまた面白いものが多かった。
勝たねば先のない弱者が強者を追いつめた一戦。神懸かりの逆転劇。攻撃的スタイルと守備的スタイルの我慢比べ。そして、ノーマークの台頭と優勝候補の敗退(自分が応援するチームが負けるのでなければ、番狂わせは最高のエンターテイメントだ)。
決勝は、それでも順当だったといえる。
ただし、スペインが勝ったのは嬉しい事件だった。フィジカル面ではワールドカップよりずっと厳しい大会を、体格に重きをおかず、技術を前面に出したスタイルで制したのだから。
「一番良いサッカーをするチームが優勝した。毎回そうなるとは限らないが、この大会はそうなった」
これは決勝のMVPフェルナンド・トーレスの言葉。
出場16チームの中で、スペインのサッカーは明らかに異質だった。
もちろん、あのスタイルを好まない人もいるだろう。現に、イタリアのガットゥーゾは「スペインのように短いパスを20本も繋いだら、スタジアム全体からブーイングされてしまう」と言っている。
だが、“フットボール”の基本はボールを足でうまく扱うこと。
そういった意味からも、今回のスペインの優勝は意義深いものだった。
少なくとも私はそう思っている。
祭りの後は寂しいものだ。ウィーン中心部のファンゾーンが解体されていくのを眺めながら郷愁を感じていると、10日ほど前、地元のビジネスマンから聞いた話が頭をよぎった。
──オーストリアはウインタースポーツの国。でも、この大会をきっかけに、サッカー人気は高まるだろう。
──私自身サッカーに興味はなかったが、大会に備えるオーストリア代表の試合を観て、関心を持つようになった。
23日間続いたユーロが終わった今、この国の人たちも同じ思いをしているかもしれない。