チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
セルティック、苦戦?
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byRyu Voelkel(T&t)
posted2007/09/07 00:00
トータルスコア2−3。それにしても、ザルツブルクは惜しいことをした。シャフタール・ドネツクが決勝ゴールを入れたのは87分。あと3分あまり辛抱できれば、アウェーゴールの差で、本大会出場は叶っていた。
三都主はベンチを温めたが、宮本は先発を飾った。彼がそこで良い経験を積んだことは間違いないが、本大会が予備予選3回戦を上回る舞台であることは言うまでもない。そこに出る出ないには、天と地ほどの開きがある。スパルタク・モスクワをPK戦の末に下し、本大会出場を決めた中村俊輔を思うと、運のなさを痛感させられる。ツネ様は、もはや旬ではないのだろうか?
しかし、解せないのは、オーストリア遠征の日本代表メンバーに、ザルツブルグに所属する両選手の名前が含まれていないことだ。とりわけ三都主は、浦和レッズ時代には皆勤を通していた選手だ。オーストリアで試合をするなら、呼ばれるのが当然。その落選が大きく取り上げられない点は、もっと不自然に感じる。
それはともかく、予備予選3回戦でザルツブルクを下したシャフタールは、セルティックと同じ組で戦うことになった。日本人が所属する両チームの、力関係を推し量るまたとない機会。そうした見方はできる。ザルツブルクが惜敗した相手に、セルティックはどんな戦いを挑むのか。
D組には、セルティック、シャフタールの他に、ミランとベンフィカも含まれている。セルティックはミランと、昨季の決勝トーナメント1回戦で対戦した間柄。ベンフィカともグループリーグを同じ組で戦っている。正直言って、対戦相手に不満ありと言わざるを得ない。どうせなら、対戦したことのないチームと戦う中村俊輔の姿が見たかった。
選手のプレイは、相手チームによっていくらでも変わる。思わぬ長所、思わぬ短所、新たな可能性を発見する場合もある。選手自身も、タイプの異なる様々な相手と対戦した方が、経験値は上がる。D組の顔ぶれを見ると、つい無い物ねだりをしたくなる。
とはいえセルティックが、マンチェスターU、セルティック、ベンフィカ、コペンハーゲンと同組だった昨季に続いて、組み合わせに恵まれたことは事実だ。
昨季優勝のミランの力は抜けている。ミランの上を行くためには、よほどの運が必要だ。目標は昨季同様、2位狙い。ベンフィカ、シャフタールを上回ることが、ベスト16進出を果たすための絶対条件になる。しかし、昨季の戦いを振り返ると、それが思いのほか簡単なことではないことが明らかになる。
初戦のホーム3−0、第2戦のアウェー0−3。これが、昨季のベンフィカ戦の成績だ。セルティックはそれぞれの戦いで、180度異なるプレイを見せた。
初戦のホーム戦には、明らかに運が絡んでいた。3−0はベンフィカにとって、信じられない結果だった。セルティックパークを満員に埋めたファンのイケイケドンドンの熱狂が、少しでも弱ければ0−0、せいぜい1−0で収まっていた内容だ。逆に、アウェー戦の0−3は、スコアと内容が一致していた。もう一度、やり直しが利くならベンフィカ有利。その時、現場でそんな感想を抱いたものだ。
セルティックに不可欠な点は、ホーム戦のスタンドの声援だ。相手にとっては、これこそが最大の脅威になる。しかしベンフィカには、慣れがある。昨季のように、面食らうことはない。2季連続の対戦を歓迎しているのは、セルティックではなくベンフィカ側だろう。そのセルティックに先を越され、グループリーグ3位に終わった事実が、モチベーションに火を付けているはずだ。今季の対戦は、ベンフィカホームがまず先だ。対戦順でも、ベンフィカが有利なように見える。
シャフタールも侮れない。最近では、昨季、3年前ともにグループリーグ3位。CLの舞台で、それなりの結果を残している。昨季、セルティックと同じグループで戦い、4位に沈んだコペンハーゲンより、高い経験値を備えている。セルティックの初戦は、そのシャフタールとのアウェー戦。ファンの声援が弱いと脆さを発揮するセルティックにとっては、鬼門と言うべき試合になる。
セルティック危うし。と言いたいところだが、救いがあるとすれば、ゴードン・ストラカンになる。彼の采配はなかなか良い。これは昨季のCL観戦を通して得た実感だ。中村俊輔の使い方、活かし方は、オシムより上。僕にはそう見えて仕方がない。日本人がCLで、まず注目すべき点は、そこにあるのではないだろうか。世界には、優れた監督が無数にいる。オシムの善し悪しを語るなら、その前にCL出場チームの監督に目を凝らすべきだろう。ちなみに僕が今季、お勧めしたい監督はベルント・シュスター(レアル・マドリー)。彼はやる。おそらく。