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From:コートダジュール
「スポーツ選手の健康管理。」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2007/09/05 00:00

From:コートダジュール「スポーツ選手の健康管理。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

欧州サッカーがいよいよ開幕した。

夜の試合は、すでに長袖で観戦しても大丈夫。

日本の夏はスポーツをやるような気候じゃないとつくづく思う。 8月末と言えば、モナコのルイ2世スタジアムで行われる欧州スーパーカップの観戦が、数年来の恒例になっている。

 昨季のチャンピオンズリーグの覇者と、UEFAカップの覇者とが対戦する、シーズン開幕を告げる一戦である。

 今回は、バルセロナから車でモナコを目指した。バルセロナ→モンペリエ→マルセイユ→ニース→モナコは、全長800キロ以上はあるはずだが、僕はペーパー・ドライバーなので、その間、会話を盛り上げること以外にすることはない。暇に任せて、べらべら喋るだけの役どころだ。

 助手席が好きな理由はそこにある。単なる盛り上げ役。僕の性に、これほどマッチしているポジションも珍しい。しかし、傍らの運転席に座るカメラマンSも、同類に属する口達者なお笑い系だ。休憩を入れての7時間半は、したがってあっという間に経過した。

 12時にバルセロナをスタートした車は、7時半には、ルイ2世スタジアムの駐車場に到着。試合開始は8時45分なので、まさにドンぴしゃのタイミングだった。

 イタリア人、フランス人、スペイン人など、ラテン人は、一般的に喋り好きだ。日本人より明らかに口数が多い。ある時、イタリア人に理由を尋ねてみた。なぜなのか、と。すると答えはこうだった。「沈黙が怖いから」。僕は一瞬、ハッとした。まさに自分が、そうであることに気づいたからだ。喋りたいから喋っていると言うより、沈黙が怖いから喋っているというケースは意外にも多い。初対面だったり、少しばかり緊張している時に、その傾向は強い。

 それはさておき、試合前、ルイ2世スタジアムも、本来とは異なるムードに包まれた。心臓発作で倒れ、そのまま帰らぬ身となったセビーリャのプエルタ選手を偲ぶ、追悼セレモニーが行われたからだ。パンチの効いた左足を持つサイドアタッカー。スペイン人には珍しく、タテに強い選手だった。昨シーズンの活躍で、スペイン代表にも選ばれた弱冠22歳。今が旬の売り出し中。個人的にもかなり熱い視線を送っていた選手だった。

 スポーツに不慮の事故はつきもの。プエルタ選手の死は、防ぎようのない事件だったのかもしれない。しかし、世の中はいま概して、スポーツ選手の健康管理に対して鈍感だ。そういわざるを得ない。まず想起するのは、先のアジアカップだ。UAE戦の後の記者会見でオシムは「一番嬉しいことは、試合結果よりも、誰も心臓発作を起こさずに試合を終えたことだ」と語ったが、僕もその時、まさに同じ感想を抱いていた。30度以上の気温、90%近い湿度の中で、サッカーの真剣勝負を行うことは、常軌を逸脱している。内容について云々する気は、とても湧いてこないのだ。

 Jリーグもしかり。クソ暑い8月に、週2ペースで試合を行って良いものか。選手の健康を考えたら、絶対に避けるべきではないのか。試合後、選手の精も根も尽き果てたといった表情を見ると、思わず閉口させられる。お喋り好きの僕でさえ、だ。

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