Column from GermanyBACK NUMBER
ドイツ代表の黄金時代がやってきた(かも)。
text by
安藤正純Masazumi Ando
photograph byAFLO
posted2007/09/10 00:00
12試合で10勝1敗1分。昨夏のW杯終了後、代表チームの監督に就任したヨアヒム・レフの戦績である。1923年のオットー・ネルツ初代監督から数えて10代目のレフ。過去、これほど素晴らしいスタートを切った代表監督は一人もいない。
先月、新装なったウェンブリーでイングランドと対戦したドイツ代表は、バラック、クローゼ、フリングス、シュバインシュタイガー抜きの“Bチーム”ではあったが、終始イングランドを圧倒し、スコア(2−1)以上の内容で強敵を撃破した。
これで対戦成績はドイツ側から見て30試合10勝6分14敗(36得点、64失点)となった。依然と負け越しではあるが、'66年W杯決勝戦を除けば、W杯でもユーロでも本大会と予選とを問わず大事な試合はほとんどドイツが制している。聖地ウェンブリーでは実に5勝目だ。
イングランド戦で驚いたのは、左DFのラームが初めてボランチを担当したことと、4−5−1というフォーメーションだった。これはGKとセンターFW以外どこでも出来るマルチプレーヤーが誕生し、超攻撃型でも超守備型でも選手とシステムで即座に対応できるまでにチームが柔軟になった証拠である。すなわち強豪の条件を満たしたのだ。
ちょっと前までは我々はドイツといったら、カーンとバラックしか知らなかった。それが最近では世代交代が進み、次から次へと若い選手が加わってきている。それも名前と顔が一致しない選手ばかりで、カストロ、ゴメス、ケディラ、タスチ、ファティら外国人の両親を持つ若手もドイツ国籍に変えて野心満々でレギュラーのチャンスを狙っているほど環境が変わった。古いイメージのドイツ代表は生まれ変わったのだ。
目下、40人から50人ほどの代表候補選手リストがレフ監督の頭の中にある。来年のユーロには23人しか出場できない。現時点で出場が100%確実視されているのはFWクローゼ1人だけだ。
レフが誰を選ぶかはリーグ戦のパフォーマンスを基準にして、これから毎月行なわれる代表試合で決めていく。そうなると誰が選ばれるかということより、代表チームがどれだけ底上げされるかということのほうに興味がわく。
9月はウェールズとルーマニア、10月はアイルランドとチェコ、11月はキプロスとウェールズ、年明けは2〜3月にユーロ共同開催国との対戦が控える。この8試合でドイツ代表は、私の予想だと悪くても7勝、順調にいってパーフェクトを達成することだろう(スッゲー!)。アウェーで引き分け狙いをしないのはウェンブリーで何度も証明されている。ドイツはそんな臆病風に吹かれるチームじゃない。だからこのチームは面白いのだ。
断言する。今のドイツ代表チームは“爆発前夜”の状況にある。かつての無能な指導者と無用なロートル集団は完全に表舞台から退いた。レフの知性と決断力が内部の敵の存在を許さなかったからである。もちろんその第一歩はクリンスマンが踏み込んだものだが。
さてそのレフだが、経歴を見てみると現役時代に獲得したタイトルは1つもない。U−21代表に4回招集されただけで、フル代表の経験もゼロ。一応、ブンデスリーガの選手ではあったが、2部では「252試合、81得点」を挙げたものの、1部での「52試合、7ゴール」という実績は、いやでも「平均以下のプロ選手」というイメージにつながってしまう。
指導者に転向後も、決して一流とはいえぬチームの面倒を見た。転機となったのは、クリンスマン前代表監督との関係の深さから'04年に代表アシスタントコーチへ特進したことだ。これにより元々持っていた彼の抜群の戦術眼と人身掌握の才能が一気に開花したのである。
現役時代のショボい経歴から、レフを色眼鏡で見ることは簡単だったはず。だが選手も協会も純粋にレフの指導者としての能力を認める了見の広さがあったからこそ、今の代表チーム強化につながっているのではなかろうかと思う。
そう考えると、人情的にもレフを応援したくなる。そして代表チームも。なにしろ'98年から'05年まで続いた“低迷の8年間”にケリをつけて、'06年W杯の熱狂によって代表チームの魅力を広く再確認させたのだから、どうしたって「もっと頑張ってくれよ」と声をかけたくなる。こういう人情も爆発前夜には必要な外部圧力となるのかな。