MLB Column from WestBACK NUMBER

今シーズン、MLBは不況に耐えられるのか 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byNewscom/AFLO

posted2009/03/29 00:30

今シーズン、MLBは不況に耐えられるのか<Number Web> photograph by Newscom/AFLO

 2009年シーズンの開幕を目前に控えたこの時期に、何とも暗いニュースを耳にすることになった。ESPNの「Baseball Tonight」でつい最近報じていたのだが、タイガースのチケット売り上げが、前年比と比較して40%も減少しているのだそうだ。

 いうまでもなく、世界同時不況の影響だ。デトロイトといえば、今回の不況で最も影響を受けた米国自動車産業の本拠地。この年末年始も各メーカーが次々に大幅な人員削減策を断行したというニュースを聞いた人も多いことだろう。自動車産業に携わる労働者が多い地域だけに、チケット売り上げがもろに影響を受けてしまったようだ。

 もちろん不況の影響は自動車産業のみならず、あらゆる業種に広がっている。様々な企業で賃金カットや人員削減が実施されている現状を考えれば、この現象はタイガース1チームに留まるとは思えない。特にホワイトカラーを主要ファン層にしている地方都市に関しては、ニューヨークやロサンゼルスのような確固たる富裕層を持つ大都市とは違い、不況の影響は決して少なくないだろう。

 実はこのニュースを報じるに当たり、ESPNの野球アナリストであるバスター・オルニー氏が、ある予測を付け加えているのだが、これが非常にシリアスなものだった。

「デトロイトに限らず、クリーブランド、セントルイスなど地方都市のチームは、開幕から好成績を残すことを意識しているのではないか。さもなければ5月以降、高額選手の扱いを真剣に考えざるを得なくなるだろう」

 細かい説明は不要だろう。現在でもチケット販売に影響が出ている状況で、仮にチームが開幕から成績が落ち込むようなことになれば、ファンがますます球場から遠ざかってしまうのは当然のこと。そうなれば球団経営を直撃するのは否めず、タイガースをはじめカージナルス、インディアンズのように地区優勝を狙える戦力を揃えているチームは、主力の高額選手たちを保有していくのも困難になるとの予測なのだ。大企業も少なく大型のスポンサー契約を獲得するのは簡単ではなく、収入源の大半をTVの放映権料とチケット収入に頼っている地方都市の場合、オルニー氏の予測は、決して的外れだとは思えない。

 メジャーリーグとは直接関係ないことだが、NBAのデビッド・スターン・コミッショナーが先日、選手会との間で労働協約の見直しをしなければならいとの発言をしている。労働協約とは、選手との契約の取り決めやチームの年俸総額を決めるもので、メジャーリーグにも存在し、有効期限が切れるたびに機構側と選手会側で討議され、新しい協約が結ばれている。その話し合いが平行線を辿った1994年に、シーズン途中で選手会がストライキを断行したのを記憶されている方も少なくないだろう。その労働協約が現行のままだと、「NBAが取り返しのつかないダメージを受けるだろうというシナリオを考慮しなければならない」と、スターン・コミッショナーは警鐘を鳴らしている。実際NBAは、この2月に全チームを対象に2億ドルずつの緊急支援配布を決定している。

 NBAの場合、1試合あたりの収容人員はメジャーリーグとは比較にならないほど少ないし、試合数も約半分しかない。その分チケット収入の減少はメジャーリーグ以上に影響を受けてしまう。しかしその反面、NBAにはサラリーキャップ制度(1チームの年俸総額に上限を設ける制度。だがNFLほど厳格ではない)が存在するし、契約選手数は極端に少ない。選手年俸が無制限なメジャーリーグでは、ある程度の強豪チームにいけば、NBAのスター選手並みのサラリーを得ている選手がゴロゴロしている状態だ。果たしてメジャーリーグのチームの中で、スターン・コミッショナーの発言を他人事だと受け流せるチームはどれだけ存在するのだろうか。

 シーズンが開幕していない現時点では、オルニー氏の予測はあくまで予測でしかない。それが正しいと証明されるには、もう少し時間の経過を待つしかない。だがその一方で、メジャーリーグに彼の予測したような動きが起こってしまったならば、それ自体がメジャーリーグの暗澹たる未来の始まりになる可能性は十分だ。2009年は、一体どんなシーズンとなっていくのだろうか。取材する立場としては、ただただその動きを見守ることしかできないのだが……。

 ところで、長年担当させてもらった「MLBコラム」だが、今回を持って最終回を迎えることとなった。これまで自分の思いのままに発言させてくれたNumber編集部に心から感謝の意を述べるとともに、このコラムに目と通して頂いたすべての読者の方々に御礼を申し上げたい。

 ありがとうございました。

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