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アンリINカペッロOUTの衝撃。 

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鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2007/06/29 00:00

アンリINカペッロOUTの衝撃。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 最終ピリオドになっても、レジェスのショットは心地よく決まってゆく。リバウンド王に輝いたこともあるレアル・マドリーのゴールハンターを誰も止められない。

 ラスト53秒。バルセロナ生まれのラウールが3ポイントを鮮やかに決めると、優勝は揺るぎないものとなる──。

 実はこれ、バスケットボールの話。ACB(スペイン・プロバスケットリーグ)もまた、レアル・マドリーがシーズン王者に輝いたのである。フェリペ・レジェスはキャプテン、ラウール・ロペスはNBAのユタ・ジャズで3シーズン過ごしたこともあるプレイメーカーだ。

 ファイナルで泣いたのは、フットボールと同じくFCバルセロナだった。バスケでも、バルサはラウールとレジェスにしてやられた。レアルのカルデロン会長が仲間たちと抱き合って喜んでいる。

 バルサのラポルタ会長は、背中にカルデロンの優越感を浴びながら、カンプ・ノウへと向かった。

 バスケットの体育館とカンプ・ノウは目と鼻の先にある。落ち込むバルサのサポーターたちも、とぼとぼとスタジアムへと足を運んだ。

 ラポルタ、そしてサポーターたちが待っていたのはアンリだった。アーセナルから2400万ユーロ(約40億円)で獲得したスーパースター。悔しがってるヒマはない。来季の勝負はすでにはじまっている。

 「ロンドンを出て行くとしたら行き先はバルセロナしかない、と言い続けてきたし、バルサのスタイルはアーセナルと似ているから。新しいリーグ、新しい言語だけど、それでも、ボクはバルセロナを選んだ」とアンリは言った。

 ミランからも誘われていたが、そもそもアンリは子どもの頃からバルサが好きだった。チャンピオンズ・リーグでモナコがバルサと対戦した93−94シーズン、モナコのスクールにいた16歳のアンリは、ストイチコフやロマーリオにサインをもらいに走ったこともあるという。

 他にも移籍話は花盛り。バルサはモナコからMFヤヤ・トゥーレも獲得し、ローマのCBキブとの契約がまとまれば縦の軸が成立する。特にプジョルが南アフリカで行われた親善マッチで全治3カ月のケガを負ってしまっただけに、センターバックの補強は必須である。

 さらには、アビダル(リヨン)、アンドラーデ(ラ・コルーニャ)、アルベス(セビージャ)らも候補にあがっているけれども、それだけに放出される選手もいるわけで。

 ファン・ブロンクフォルストはフェイエノールトへ、母国オランダに戻ることが決まった。モッタ、エジミウソン、ジュリらも他のクラブから引く手あまただ。だが、一番の悩みどころはレアル行きも噂されるサビオラだろう。

 親友のメッシはいう。

 「彼がマドリッドのユニホームを着てプレーするとなると、とてもツライです。アミーゴだし、もっと一緒にプレーできたらよかったんですけど」

 カンプ・ノウであれほど愛されたサビオラも、移籍リストのメンバーである。昨シーズン、優勝の明暗を分けたエスパニョール戦でベンチからも外されては、温厚なサビオラといえども腹わたが煮えくりかえっていてもおかしくはない。

 レアル・マドリーはどうだろう。昨シーズンの冬の移籍マーケットで、ガゴ、イグアイン、マルセロといった若手を獲得したので、ベッカム、ロベルト・カルロスらが抜けた穴をそれほど懸念することもない。あるとすれば、ファン・ニステローイのケガの具合であり、状態によってはアタッカーの補強をしなければならない。

 いまもなおカカを求め続けているレアル・マドリーであるが、カカが動けば、ロナウジーニョがミランへ、クリスティアーノ・ロナウドがバルサへ、なんていう大移動が起こりそうだが、たいていこういった三角関係は崩れない。カカ側は何百億出されても、返事は「ノー」だろう。それだけに、バルサにダメージを与えることを考慮しても、サビオラ獲得がレアルの隠れ本命ともいえる。

 だが、名前だけではファンは満足いかない。勝てばいいわけでもなかった。常に結果よりも内容が求められた。

 ファビオ・カペッロはこう分析した。

 「スペインに存続するフットボールの概念は、どれだけボールにタッチするか、である。イタリアとは違う。私はそうしていたつもりはないが、ディフェンシブなフットボールは批判される。6人の選手で守っているというが、守備のときは多くの選手で守るのが一般的。4−2−3−1とはいうけれども、ときに現実的な図式は9−1である」

 カペッロのフットボールは、就任1年目でチャンピオンとなった。昨シーズン、ラストの3、4試合はミラクルの連続だったが、それはけっして守備的でなく、むしろオフェンシブなカペッロがいたのが理由だった。

 しかし、カペッロの声はマドリッドの民衆には届いていなかったようだ。新聞のアンケートにおいて、カペッロ続投はシュスターをはじめとする他の候補者に比べて圧倒していたとはいえ50パーセントにも満たなかった。

 レアル・マドリッドの元スポーツ・ディレクターであるイタリア人、アリーゴ・サッキはこう解説する。

 「カペッロには申し訳ないけど、スペインとイタリアのメンタルは違う。イタリアではひとつのタイトルを獲得すれば90パーセントのファンは続けて欲しいというだろうけど」

 カペッロは解任された。

 ミヤトビッチGMからすると、「レアル・マドリーの未来には相応しくない」らしい。なるほど、と納得もできるが、信じられない、と憤慨する気持ちもわかる。後任がベンゲルやラファ・べニーテスのクラスなら、ミヤトビッチのいう未来も描けるかな、とも思う。おそらく、何か策があってのことだろう。

 優勝監督、解雇。

 旅行先の上海で、息子から知らせを受けたカペッロはどう感じたのだろうか。

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