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“史上最強”バイエルンの死角 

text by

安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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posted2007/06/28 00:00

“史上最強”バイエルンの死角<Number Web> photograph by AFLO

 史上最強のチーム──。使い古されたキャッチフレーズだが、来季のバイエルン・ミュンヘンにはぴたりと当てはまる。新メンバーの顔ぶれを見ると、うなり声を上げてしまう。海外からはルカ・トーニ、リベリー、ゼ・ロベルト、ソサ。国内移動組はヤンセン、シュラウドラフ、アルティントップ弟、そしてもう1人、超有名FWも入団する予定になっている。

 たしかに豪華だ。欧州と南米のトッププレーヤーが適度に混合する姿は、人種のるつぼを表わす“サラダボウル”を連想させる。ただ、この新チームに過剰な期待感を寄せるのはどうかと思う。ボウルに入った野菜は色とりどり。オリーブオイル(金銭)もたっぷり含ませた。ところが味を決定付ける塩が若干足りない、と言ったら分かってもらえるだろうか。

 この場合の塩とは司令塔のことである。自らのパフォーマンスでメンバーの信頼を集め、ゲームに決定的な影響力を与える選手をこの国では「アンフューラー」(真のリーダー)と呼び、尊敬を集める。それがバラックであり、マテウス、エッフェンベルクだった。リーダーという意味ではカーンの存在が大きい。しかし彼のポジションはGKであり、ピッチに散らばる仲間のプレーに直接関与が出来ない。影響力はMFと比べるべくもない。

 昨季の不振はまさにこのアンフューラー不在が大きかった。そのため、ファンデル・ファールト、スナイデル、リケルメらの獲得を狙ったが、どれも失敗。ブレーメンのジエゴは私がイチ押しの「10番」なのだが、バイエルンは「身体が小さい」という理由で強い関心に至らなかったという。事実ならばガッカリだ。ジエゴは他の候補者三人と同じ体格だし、1対1の競り合いでの勝率も高く、年間シュート総数は205回でリーグ2位、そして肝心のゴールは13点(FK6点含む)、アシストだって15もある。誰もドリブルを止められないから、ファウルを受けた回数は170回に及んだ。92年に統計を取り出して以来、最高の「やられ王」ということになる。ジエゴこそが、リーガ最高の司令塔なのである。

 ではなぜ、バイエルンはジエゴを獲得する意思がなかったのか。1つにはヒッツフェルト監督が彼を真のリーダーとして見ていなかったからである。監督はリーダーの資格として「ドイツ語を完璧にしゃべり、あらゆる面でチームメイトを納得させられる力量と人格」を求めている。ジエゴはこの条件を満たさない。監督は今季、「両サイドからのウイング攻撃を軸にした戦術」を採用していく。リベリー、ヤンセンの獲得はそのためだ。どうしても「10番」に固執するという理由はなくなった。

 新シーズンの補強策を終えたバイエルンはピサロとショルが退団したことで、中盤から前線にかけての攻撃シーンは迫力満点になると思う。練習で、リベリーはファン・ブイテンにドイツ語の通訳をしてもらうのでチームに溶け込むのも早いだろう。心配なのはルカ・トーニである。といっても通訳の話ではない。

 最近発売された専門誌がバイエルン選手の年俸ランキングを発表したのだが、嘘か誠か、ルカ・トーニは1000万ユーロ(約16億円)だというではないか。これはサニョールとカーンの2倍、マカーイとポドルスキーの3倍以上になる天文学的報酬。記事の内容が本物だったら、カーンを頂点にしてピラミッド形のヒエラルキー(階層)が出来上がっているチーム内はこれから大騒ぎになる。

 ところで「超有名FW」ですけど、誰だか分かりますか?ヒントは「前転宙返り」。移籍は年内にハッキリする。こちらはガセネタではないので念のため。

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