Column from GermanyBACK NUMBER
降格候補のなかでも注目は……。
text by
安藤正純Masazumi Ando
photograph byREUTERS/AFLO
posted2007/07/11 00:00
8月10日の新シーズン開幕を前に、各チームとも夏のキャンプに入った。海外へ出かけたのは香港での親善試合に出場したバイエルン・ミュンヘンだけで、それもたったの4日間という短期ステイ。そのバイエルンは8日から15日まで、VfBシュツットガルトと同じ南西部の田舎町で合宿を行なう。
全チームともそういうわけで目下、国内合宿の真っ最中である。場所はほとんどが、風光明媚で高原の涼しさを満喫できるスイス国境にほど近いアルプス地方を選んでいる。観光名所が多いだけにホテル代も高い。だが、アルプスでキャンプを張らない例外チームもある。ハンザ・ロストックはずっと地元周辺で合宿。これはクラブの予算が非常に厳しいために「節約令」が出ているからだ。同じ旧東独のコットブスも、ホテル代が安い東部で費用を浮かせる。カールスルーエも似たようなもの。地元から50キロ圏内で慎ましく準備を進める。
本番間近の雰囲気が伝わり、いよいよだな、と心が弾む。ここでシーズン前のお楽しみとなるのは何と言っても降格予想である。優勝予想ではない。なぜって…、あれだけ補強したのだからバイエルンに決まってるじゃないですか。対抗馬なんて有り得ません。あ、それと前回のコラムで書いたクローゼのバイエルン移籍が正式決定しました!またもや大当たりです♪(ビッグもトトも当たらないというのに……)
さて、その降格候補だが、MSVデュイスブルク、カールスルーエ、ロストック、コットブスで決まりだ。ビーレフェルトを加えれば完璧な“落第候補リスト”が出来上がる。
論拠の1つに予算がある。いや、なに、金額の多寡で降格チームを決め付けるのも酷な話なのだが、最近の流れだと、どうしてもそうなってしまうのだ。この点はとてもつまらない。金額と成績は正比例ではないものの、2つの曲線はとにかく似通ってくるのだ。
その年間予算に目をやれば、カールスルーエ21億円、コットブス32億円、ロストックとMSVがそれぞれ30億円(推定)。これでは選手補強費だけで50億円払ったドルトムントや、115億円払ってもまだ金庫に140億円も残っているバイエルンに敵うわけがない。
さて、降格候補には財政以外にも監督の力量というファクターが大きく関連している。5チームの監督で誰かこれまでメインのタイトルを獲得した人はいますか?UEFAカップに導いた人はいますか?答えはゼロ。では、ブンデスリーガで降格争いを演じなかった監督は?答えはゼロならぬ全員……。
5人とも日本では無名なのであえて紹介はしないが、ロストックのパーゲルスドルフは気になる監督である。この人、相撲取りみたいな見事な体格の持ち主で、人の好き嫌いが激しいことで知られる。昨季はGMとまったくソリが合わず、あろうことか、虚偽と謀略を駆使してGMを追放してしまった。また「ピッチの芝生の状態が悪い。全部代えてくれ」と経営陣に訴えたり、自分の報酬にうるさかったりと、とにかく手が焼けるのだ。
私が彼に注目しているのは、この人が「GM兼任の監督」になるのを望んでいた点だ。恐らくボルフスブルクのマガート新監督を真似してみたかったのだろう。つまりは政策、補強、交渉、契約、指導など現場の仕事をすべて一人で切り盛りしたい考えなのだ。すなわちフロントを交えた集団指導体制ではなく、何でもかんでも自分の思い通りにやれる独裁者志向である。
クラブ側は「芝生交換はした。夏用、冬用の練習場も確保した。予算に限りはあるが出来ることはすべてやった」と、あとは監督の義務と責任においてしっかりやってくださいよ、というメッセージを伝えた。同時に、「クラブは理事会によって成立する。すべてを一人で取り仕切るのは健全な発想ではない。クラブの体質にも合わない」と、権力の一点集中を批判した。
会長なり監督なり、どちらか一方でも独裁的になるとクラブは風通しが悪くなり、あっと言う間に没落していく。かつてのドルトムント、シャルケ、フランクフルト、シュツットガルトがそうだった。逆にその体制が崩壊した途端に、彼らは再復活を遂げた。
ドイツにはいまだに家父長的に振る舞い、選手に命令だけして踏ん反り返るだけの監督を見かける。1部昇格を果たして地元の英雄に祭り上げられたパーゲルスドルフがどんな指導をして、どれだけの成績を残せるのか、ここは優勝争いにもチャンピオンズリーグにも関係ないレベルだが、降格5人衆の代表としてしばらく注目をしていきたいものだ。