MLB Column from USABACK NUMBER
ヤンキース ミニ・ボスの「八つ当たり」
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byREUTERS/AFLO
posted2008/10/03 00:00
9月23日、レッドソックスが対インディアンズ戦の勝利でア・リーグ・ワイルドカードの座を確保、1995年から続いてきたヤンキースのプレーオフ連続出場記録が13年で途切れることが決まった。
同日発売の『スポーティング・ニューズ』誌上で、ヤンキースのオーナー代行、ハンク・スタインブレナーが、プレーオフに出られなかったことについて、「ナ・リーグ西地区優勝のドジャース(最終成績84勝78敗)よりも成績のよいヤンキース(同89勝73敗)がプレーオフに出られないのはおかしい」と、現行プレーオフ制度の不公平さを糾弾して話題になった。スタインブレナーは、さらに、「2005年に83勝78敗と貯金がわずか5しかなかったカージナルスがワールドシリーズに優勝したのもおかしい」と気炎を上げ、「ボス」と呼ばれた父親ジョージにちなんでつけられた「ミニ・ボス」のニックネームがだてではないことを証明したのだった。
「強いチームがプレーオフに出場できなかったり、弱いチームがチャンピオンになったりする制度はおかしい」というスタインブレナーの主張は、一見筋が通っているように見えるかもしれないが、当地では「八つ当たり」と見る向きがほとんどであり、冷ややかな受け止め方をされている。しかも、ヤンキースの場合、2億900万ドルとメジャー1位の年俸総額を費やしたにもかかわらず、ア・リーグ東地区の優勝を総額わずか4400万ドル(メジャー29位)のレイズにさらわれたのだから、オーナー一族としてこれほど面白くないこともなかったのは間違いなく、スタインブレナーが、MLBプレーオフ制度の不公平さをなじって吠えまくったのには、2億ドル分の怒りが込められていたのである。ちなみに、レイズの年俸総額4400万ドルは、ヤンキースが井川慶一人に投資した額4600万ドル(ポスティング交渉料2600万ドル、プラス5年契約の年俸総額2000万ドル)に満たないのだから、その「無駄遣い」のほどがわかるだろう。
さて、では、なぜ、スタインブレナーの現行制度批判が「八つ当たり」と受け止められているかだが、その理由は、過去に、ヤンキース自身が、それほど成績がよくないのにプレーオフに進出、ワールドシリーズに勝った年があったからに他ならない。2000年、87勝74敗とぱっとしない成績でア・リーグ東地区を制したヤンキースは、90勝72敗と成績で優るインディアンズを押しのけてプレーオフに進出した上、最終的にメッツを下してワールドシリーズも制した。「自分が現行制度の恩恵をこうむってきたくせに、今さら制度が『不公平』と吠えまくるのは筋違い」と、冷笑される所以(ゆえん)である。
ちなみに、今回スタインブレナーがやり玉に上げたドジャースは、昨季終了後、スタインブレナー達が退団に追い込んだばかりのジョー・トーリが監督、ヤンキースのプレーオフ連続出場記録が途切れる一方で、トーリ個人の監督としての連続出場記録は続いたのだから、ミニ・ボスとしては面白くなかっただろう。本人は、「ドジャースがプレーオフに出たことを怒っているのはトーリに対する特殊な感情からではない」と否定しているものの、たとえば、ヤンキースタジアム最終戦のセレモニーで映されたチームの歴史を振り返るビデオで、「大功労者」トーリの名が言及されなかった一事を見てもわかるように、トーリに対して不愉快な感情を抱いているのは間違いないところなのである。
ところで、「栄光のヤンキース史」ビデオの中で名を言及されなかった大功労者はトーリだけではなかった。昨季終了後に発表された「ミッチェル報告」で、薬剤汚染選手の代表格とされたロジャー・クレメンスの名も一切言及されず、チームの歴史から抹消される扱いを受けたのだった。