MLB Column from USABACK NUMBER

松坂大輔のセイバーメトリクス的「不思議」 

text by

李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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posted2007/12/04 00:00

松坂大輔のセイバーメトリクス的「不思議」<Number Web> photograph by AFLO

 今季の松坂の15勝12敗という成績について、「いいピッチングをしたのに、味方が点をとれないせいで勝ち投手になれなかった試合が多かった。本当はもっといい成績だったはずだ」という意見をよく耳にする。

 この意見が正しいのか間違っているのか、今回は、セイバーメトリクスの手法を使って検証してみよう(ちなみに、前回も説明した通り、セイバーメトリクスとは、野球というスポーツを、「プロの目」による主観的解析ではなく、データに基づいて客観的に解析しようとする「学問」である)。

 今回の検証に用いたのは、セイバーメトリクスの創始者、ビル・ジェームズ(現レッドソックス顧問)が考案した「ゲーム・スコア」法だが、先発投手がある試合でいい投球をしたかどうかを、以下の計算に基づいて判定する仕組みである。

1) まず、基礎点50からスタートする。

2) アウトを1つ取る毎に、1点を追加。

3) 5回以降、1イニングを投げ終える度に2点を追加。

4) 三振を取る度に1点を追加。

5) ヒット1本打たれる度に2点を減点。

6) 自責点1当たり4点を減点。

7) 失点(非自責点)1当たり2点を減点。

8) 四球を与える度に1点を減点。

 ここで、ジェームズは、「タフ・ロス(惜しい負け=運が悪い負け)」について、「ゲーム・スコアが50を超えたのに、負け投手となった場合」と定義しているが、たとえば、6月5日の対アスレチクス戦、松坂が7回を2失点に抑えたにもかかわらず負け投手となった試合でゲーム・スコアを算定してみよう。この試合、松坂のデータは、三振8、安打7、自責点2であるので、ゲーム・スコアは63となり、ジェームズの基準からは立派な「タフ・ロス」と認定されるのである。

 という具合に、レギュラーシーズン中松坂が登板した全試合について「ゲーム・スコア」を計算すると、「タフ・ロス」はア・リーグ1位の7試合に上り、「松坂はリーグで一番運が悪い投手」と、晴れて認定されるのである。

 と、話がここで終わったならば、「今季の松坂の成績はもっとよかったはずだ」とする主張が正しいことになるのだが、セイバーメトリクスはここで話が終わらないから奥が深い。

 というのも、ジェームズは、「タフ・ロス」の反対に「チープ・ウィン(安っぽい勝ち=運がいい勝ち)」とするカテゴリーも設け、その基準を「ゲーム・スコアが50未満なのに勝ち投手になった試合」と定義しているからである。「タフ・ロス」の時に計算したスコアで、松坂の登板全試合を検定すると、松坂の「チープ・ウィン」は、なんと、リーグ3位の5試合、セイバーメトリクスは、「松坂はリーグで一番運が悪い」と言う一方で、「リーグで三番目に運がいい」とも言っているのである。

 というわけで、松坂は運がいいのか悪いのかわからない「不思議な」投手なのだが、「タフ・ロス」は「点をあまりやらなかったのに負け投手になった試合」、「チープ・ウィン」は「点をたくさん取られたのに勝ち投手になった試合」であることを考えると、「松坂が投げる試合は、ワンサイド・ゲームが少ない」ということは事実として認定していいだろう。松坂が、相手の投手の好不調に自分の調子を合わせてしまう「周囲の影響を受けやすい性格」なのか、ワンサイド・ゲームではつまらないから試合を面白くしたいという、「ファンに対する旺盛なサービス精神の持ち主」なのか、その原因はわからないが……。

松坂大輔
ボストン・レッドソックス

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