MLB Column from USABACK NUMBER
松坂・岡島 セイバーメトリクス的成績表
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGetty Images/AFLO
posted2007/11/20 00:00
セイバーメトリクスとは、野球というスポーツを、「プロの目」による主観的解析ではなく、データに基づいて客観的に解析しようとする「学問」である。その創始者、ビル・ジェームズは、いまレッドソックス顧問として「頭脳役」を務めているが、毎年、「ビル・ジェームズ・ハンドブック」を出版、セイバーメトリクスの視点から各選手の成績をまとめている。今回は、11月1日に発売されたばかりの最新2008年版から、松坂大輔、岡島秀樹に関する部分を紹介しよう。
このハンドブックの中で、ジェームズは、投手成績を90項目に分けてまとめているが、この中から松坂・岡島がア・リーグ・ベスト10(あるいはワースト10)に入った項目を以下に示す(なお、成績は、先発投手/救援投手別にまとめられ、規定投球回数は、それぞれ、162/50となっている)。
<松坂>(括弧内はリーグ順位、ただし*はワースト順位)
奪三振 | 201 | (6) |
奪三振(9回当たり) | 8.84 | (6) |
被打率 | 2割4分6厘 | (8) |
被安打(9回当たり) | 8.40 | (9) |
与四球 | 80 | (*6) |
与死球 | 13 | (*4) |
ゴロ/フライ比の低さ | 1.06 | (4) |
被本塁打 | 25 | (*10) |
投球数(先発当たり) | 108.8 | (1) |
1試合投球数 | 130 | (1) |
同 | 126 | (4) |
自責点 | 100 | (*6) |
得点圏に走者を置いた時の被打率 | 2割2分9厘 | (8) |
ここに上げた数字を基に、松坂の2007年の成績をセイバーメトリクス的にまとめると、次のようになるだろう。
奪三振数の多さ・被打率の低さが示すように、基本的には打たれにくい投手である。さらに、投球数の多さは、スタミナの強さをも示している。しかし、与四球・与死球の多さから、コントロールに深刻な問題をかかえていることは一目瞭然である。しかも、ゴロ/フライ比の低さからもわかるように、松坂は、典型的なフライボール・ピッチャーであるが、フライボール・ピッチャーがコントロールに問題を抱えれば、被本塁打数が多くなるのも当然だろう。以上をまとめると、「コントロールの乱れから与四死球・被本塁打が増えた結果、被打率は低いにもかかわらず自責点が多くなった」といってよいだろう。
というわけで、数字は、松坂のメジャー1年目は、「力はあるのに、コントロールの乱れで苦しんだ」ことを示しているのだが、「得点圏に走者を置いたときの被打率」の低さが示すように、コントロールの悪さでピンチを迎えた後、「気力で」踏ん張った様子も窺えるのである。
<岡島>(括弧内はリーグ順位)
防御率 | 2.22 | (8) |
ホールド | 27 | (3) |
被出塁率 | 2割5分5厘 | (8) |
被打率 | 2割0分2厘 | (9) |
対右打者被打率 | 1割8分2厘 | (10) |
走者を置いたときの被打率 | 1割6分8厘 | (2) |
得点圏に走者を置いたときの被打率 | 1割3分0厘 | (2) |
決め球がチェンジアップだったときの被OPS | 5割0分3厘 | (2) |
(OPS=出塁率+長打率)
いずれの数字も、岡島がメジャー有数の中継ぎ投手であることを明示しているが、右打者にも強い左腕だっただけに、監督としては「重宝」な存在だったろう。しかも、「走者を置いたとき」、「得点圏に走者を置いたとき」と、状況が苦しくなればなるほど、被打率が低くなるのだから、リリーフとして、これほど頼れる投手もいなかった。
また、岡島がここまでの活躍ができた理由が、今季レッドソックス入りして覚えた新球種、チェンジアップの威力にあったことは、数字からも明らかだ。なにしろ、被OPSは「ア・リーグの投手が投げるチェンジアップの中で2番目に打ちにくい」ことを示しているのだから…。