濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ルールの壁をも乗り越えた
“総合格闘技”ムエタイ。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byChiyo Yamamoto
posted2009/09/14 11:30
ボーウィーの前に出る強い圧力に対し、宍戸は打ち合いながら後ろ回し、横蹴りと変則的な蹴り技を繰り出すも、最後までボーウィーがひるむことはなかった
取るべきスタンスは崇拝か、闘争か。
序盤の宍戸ペースに動じることなく、関節技を封じ、あげくにシュートボクサーの本領であるはずの投げでポイントを奪って完勝したボーウィー。彼の闘いを見ながら、あるキックボクサーの言葉を思い出した。
「タイ人の首相撲(相手の上体をコントロールし、体勢を崩してヒザ蹴りやヒジ打ちにつなげるテクニック)は打撃系の範疇を越えてるんですよ。あれは完全に“組み技”。ムエタイは総合格闘技なんです」
ムエタイはあまりにも強く、どこまでも奥深い。その頂点を究めたボーウィーは、ルールの壁さえ乗り越えてしまった。少なからぬ観客が、エースが敗れたショックを感じる以上に、“総合格闘技・ムエタイ”に酔いしれていたようだ。ただし、いたずらな崇拝は避けるべきだろう。日本人にとってのムエタイは、あくまでも打ち倒す対象であるはずだ。
大会終了後、シュートボクシング協会のシーザー武志会長は、「次は梅野をムエタイにぶつけたい」と語っている。「ムエタイは歴史が長いだけに、学べることがたくさんあるから」と言うシーザー会長だが、理由はそれだけではないはずだ。キック界を飛び出してシュートボクシングを創設した彼は、24年にもわたって既存の価値観との闘争を続けてきたのである。