カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:バンコク「眩しい白シャツ」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2005/06/13 00:00
白シャツが大流行しているバンコクに来た。
僕は今、潤いと新鮮さのあるその白を、
日本代表にも着せたい気分になっている。
「ウォーター・メロンジュース・プリーズ」。バンコク入りしてから、もう何度目になるだろうか。このフレーズを口にしたのは。いましがたも、宿泊ホテルの18階にあるレストランで、その冷え冷えをグイッと一杯、飲み干してきたばかりだ。
僕にはスイカジュースが、バンコク名物の一番手になる。スイカに氷と甘味を加え、隠し味に少しばかりライムを搾り、ミキサーにかければできあがり。瑞々しくて、ジューシーで……。日本の真夏以上を思わせる、バンコクの蒸し暑い気候と、相性は抜群に良い。
タイ以外の国では、どういうわけか飲んだ記憶がない。タイ以上に暑かったバーレーンにもなかった。というより、バーレーンに決定的に欠けていたテイストである。だからそれを最初に口にした瞬間、今回の旅の順路をとても喜ばしく思った。タイ→バーレーンだったら、今頃悲しい気分に襲われていただろう。
バーレーンに悪い印象があるわけではない。イラン対日本戦のために訪れたテヘランに比べれば天と地の差だ。かなり普通でいられる場所である。だが、バンコクではもっと普通の状態でいられる。ウォーター・メロンジュース以外にも、原因は山ほどある。食事の種類は豊富だし、原料となる食材も豊富だし、街には活気があるし、物価は安いし、そして何より女性が良い。この女好きメが!と、お叱りにならないでいただきたい。
バーレーンはイスラム教国。女性の多くは、頭部まで黒装束で覆われている。目しか確認することができない女性も少なくない。つまり何というか、潤いに欠けるのだ。女性を見てホッとする瞬間がほとんどないバーレーンから、バンコクにやってくれば、男性なら誰だって天国に思えて不思議はない。
特にイカしているのが女学生で、そのフロントホックの真っ白なシャツが、浅黒い肌と黒髪にとてもマッチしているのである。ウォーター・メロンジュースを彷彿とさせる清涼感が、すれ違いざまに味わえるというわけだ。さらに言わせていただければ、スカートがまた良い。こちらはタイトで、わずかにボディコンシャス風。茶髪&ミニが定番の日本の女子学生とは比較にならぬほどラブリーだ。
バンコクでは、彼女たちに限らず、白シャツが大流行している。マーボンクロン・センターという巨大ショッピングモールには、白シャツ専用の売り場が設けられていて、そこはどこより人でごった返していた。中には、お互いの白シャツを品定めしあう、イカした高校生のカップルもいる。男子学生もまた、浅黒い肌に白シャツがよく似合うのだ。
僕にだって白シャツには拘りがある。スギヤマといえば派手な原色志向と思われがちだが、実はどっこい、色物と色物の間に、白を意識して挟み込んでいる。白を着るから色物が着たくなるのであり、色物を着るからこそ、白が着たくなるのである。白を着てナチュラルな気分になり、ナチュラルになれば、ちょっと馬鹿してみようかと色物に走る。これを繰り返すことにより、精神のバランスは保たれる。と、勝手に思い込んでいる。
ところがいま、その白が枯渇した状態にある。旅行鞄の中で、衛生的な状態にあるのは、色物ばかり。せっかく肌が小麦色に仕上がったというのに、白がない。ウォーター・メロンジュースとの相性もぴったりな白がない。というわけで、僕はバンコクで幸せ気分を味わいながらも、完璧ではない自分の色に、少しばかり苛ついている。これも、バンコクの女学生が眩しく見える一因に違いない。
そうこうしている間に、日本代表は本大会出場を決めた。彼らにも白を着せてやりたい気分である。取り憑かれている奇妙な色をいち早く払いのけ、いったん真っ新な状態に戻ってから、改めて出直して欲しい。何よりも、いま自分たちが着ている色が、何色なのか、その特徴は何なのかを知るべきだろう。それを認識した上で、自分たちに似合う色を探すべきである。なし崩しに前進しようとすると、日本代表の不健康さは増幅してしまう。
僕がいまいる88階建て高層ホテルの一室では、テレビ画面からNHKのBS放送が流れている。日本代表が本大会出場を決めたニュースは、何度も繰り返し報じられている。うーん。そこまで喜ばしい出来事なのか。相手に不足あり。この一言で片づけた方が、よっぽどしっくり来る。僕はいま白になりたい気分でいっぱいだ。