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国単位で見ることが意味を成さない今。 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2005/10/28 00:00

国単位で見ることが意味を成さない今。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 「マッチデイ3」が終了したチャンピオンズリーグを、一言で表現すれば混戦となる。チェルシーは確かに強い。1番人気に推すブックメーカーの読み通り、憎らしいほど手堅く、一方で圧倒的な得点力を発揮している。C、D、H組を除く5つのグループの先行きも、粗方、見えてきている。その意味では混戦という表現は似つかわしくないかも知れない。だが、そこから、今季の傾向は少しも見えてこない。いつもなら、朧気に見えてくるはずの全体図は、依然闇の中だ。

 欧州のカップ戦は、各国リーグの勢力関係を探るまたとない機会である。そこでの優劣が、UEFAランキングに直結し、翌シーズン以降の出場枠などに反映されることになる。

 1位スペイン、2位イングランド、3位イタリア、4位フランス、5位ドイツ……。現在のランクは以上の通りだが、中でも足色の良いのがイングランドだ。イタリアを抜き、首位スペインの背中が見えてきた状態にある。チェルシー、マンU、アーセナル、リバプール。今季チャンピオンズリーグ本大会に出場した4チームは、いずれも優勝してもおかしくない強豪だ。スペイン、イタリアの4チームより可能性を感じるのは僕だけではないはずだし、プレミアリーグに勢いを感じる大きな拠り所にもなっている。

 チェルシー、そしてリバプールも、チャンピオンズリーグでは上々の戦いぶりを見せている。だが、アーセナルはどうだろうか。勝ち点9で首位に立つ現在の成績を見れば、問題はないように見えるが、サッカーそのもののマックス値は、ひと頃より下がっている。好成績は、組み合わせの恩恵以外の何ものでもない。同様に、マンUのマックス値も下がっている。ひと頃のマンUなら、H組(マンU、ベンフィカ、ビジャレアル、リール)で独走しているに違いない。ホームでリールに元気なく引き分ける姿を直に見ると、ベスト4以上は、何かよほどの転機が訪れない限り難しそうに思える。

 しかし、追っ手の足色が、思いのほか良くないからといって、首位スペインにその差を広げるだけのエネルギーはない。バルセロナ、そしてレアル・マドリーもなんとかグループリーグは通過するだろう。だが、ベティスとビジャレアルは苦しい。スペインがUEFAランクで首位の座に躍り出た最大の原因は、3、4番手のチームの健闘にあった。バレンシア、デポルティーボの存在こそが、強いスペインの象徴だった。非力を補う頭脳プレーで、ポイントを荒稼ぎしたのだが、いまや他国のクラブも頭脳レベルを上げ、その域に肩を並べられてしまった。マドリー、バルサ頼みというかつての状況に戻っている。

 3番手まで後退したイタリアが元気なら、それはそれで話題性十分なのだけれど、こちらもパッとしないのが実情だ。ミランがE組で大苦戦を強いられれば、インテルもアウェーで最下位ポルトに完敗を喫する始末。連勝中だったユーヴェも、アウェーでバイエルンに良い所なく敗れている。

 ドイツを抜いて4位に上がったフランスも締まらない。本大会に出場したチームが2つだけという点で、すでに後れを取っている。実力派のリヨンが、相当上位に行かない限り、ドイツに再逆転を許すことになるだろう。

 とはいえドイツが、活気に満ち溢れているわけではない。バイエルンには、ベスト4以上を狙う力はあると見るが、チャンピオンズリーグの常連になりつつあるブレーメンは、C組最下位と振るわない。シャルケも良いサッカーをしているのだけれど、欧州の水にはまだ馴染んでいない様子だ。

 つまり、出場チーム全てに良い香りを感じる「国」は一つもない。混戦という意味はそこにある。しかし、だからといって全体のレベルが下がったわけではない。上昇していることは間違いないし、内容も、より攻撃的な、娯楽性の高いサッカーになっている。

 もはや国(各国リーグ)単位でものを考えることが、意味を成さない時代になったように思える。情報化社会の名の通り、良いモノは簡単に国境を飛び越えていく。一つの国の中だけに留まりにくくなっている。

 チェルシーのサッカーはその象徴のような存在だ。イタリアサッカーの匂いもすれば、オランダの匂いもする。スペインの匂いも、イングランドの匂いもする。そして監督を務めるのはポルトガル人。チェルシーほど「国」を感じさせないサッカーも珍しい。美味しい所取りのサッカーだ。

 だが、むしろ混じり合いすぎて、本来の味が分かりにくくなっていることも確かだ。この料理の味って何?この世の中に「美味い!」と膝を打つ人は、いまのところチェルシーファン以外に数多く見当たらない。かつてのイタリアのように、バリバリのカテナチオをやっているわけではないのに、ここまで人気がないチームというのも珍しい。これもまた混沌の原因。チェルシーとチャンピオンズリーグの行方はいかに?

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