ベースボール・ダンディBACK NUMBER
ヤクルトの強みは5、6回の得点力。
宮本慎也の職人技に注目せよ。
text by
田端到Itaru Tabata
photograph byTomoki Momozono
posted2009/08/05 12:35
個人優位の巨人と中日。チームワークで勝つヤクルト。
試合中盤での集中打は、チームの意思統一なくしては生まれない。相手投手の狙い球をいかに絞るか、どっちの方向へ打つか。各個人が好き勝手に打つのではなく、チーム全体としての意思の元に打席に立つ。そのためには強いキャプテンシーを持った精神的リーダーが欠かせない。
宮本はアテネ五輪、北京五輪の日本代表キャプテンという重責を担い、プロ野球選手会の会長も務めた。さらに今季は兼任コーチの立場に就き、8月4日現在、打率.316でセ・リーグ2位。プロ15年目にして自身の最高アベレージを更新しようかという好調で、首位打者も狙える位置にいる。
30代の後半を迎えて打率がアップしていくのだから、舌を巻く。かつて野村克也監督に「宮本は自衛隊や。守るだけ」と、ジョーク交じりに言われた守備の人とは思えないほどの晩熟、カメ型の進化だ。
記録ではない。さり気ないプレーでチームを引っ張る宮本。
先日、ある試合でこんな場面があった。
その日のヤクルト打線は早打ちが目立ち、淡白な攻撃が続いていた。すると、じっくり間を取って打席に立った宮本は、好球にも手を出さずに相手投手に球数を投げさせ、追い込まれると明らかなファール狙いで粘りに入った。
早打ちを続ける味方打線の流れを変えようと、自らの打席を犠牲にしながら、チームとして今やるべきプレーのお手本を示したのだ。宮本の価値は、そんな記録に残らない部分にもにじみ出る。
5回と6回の突出した得点力。11打数連続安打に象徴される集中打。
ヤクルトのチームカラーを形作り、より光沢を与えている中心には、まちがいなく宮本慎也という職人の存在がある。