ベースボール・ダンディBACK NUMBER
ヤクルトの強みは5、6回の得点力。
宮本慎也の職人技に注目せよ。
text by
田端到Itaru Tabata
photograph byTomoki Momozono
posted2009/08/05 12:35
巨人は初回の得点力が他球団を圧し、先制攻撃で逃げ切るチーム。
中日は投手リレーがスムーズで、試合終盤に強さを発揮するチーム。
ヤクルトは中盤の5回と6回に得点を重ねる、集中打のチーム。
セ・リーグ上位3球団の「イニングごとの得失点」を見ると、そんな各チームの特色が浮かび上がってきて面白い。前半戦終了時点でのデータを表にまとめてみた。
1回 | 2回 | 3回 | 4回 | 5回 | 6回 | 7回 | 8回 | 9回 | 延長 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
巨人 | 62 | 24 | 34 | 48 | 51 | 43 | 40 | 38 | 17 | 3 |
中日 | 43 | 43 | 39 | 48 | 33 | 52 | 41 | 38 | 24 | 11 |
ヤクルト | 34 | 35 | 32 | 33 | 66 | 54 | 20 | 32 | 14 | 2 |
1回 | 2回 | 3回 | 4回 | 5回 | 6回 | 7回 | 8回 | 9回 | 延長 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
巨人 | 22 | 25 | 29 | 40 | 45 | 31 | 30 | 46 | 21 | 4 |
中日 | 38 | 33 | 29 | 39 | 41 | 34 | 28 | 34 | 16 | 7 |
ヤクルト | 39 | 34 | 32 | 36 | 34 | 52 | 23 | 29 | 12 | 0 |
巨人は坂本、中日は継投に注目。では、ヤクルトは……。
まず巨人は、初回の得点が62点と断然多い。文句なしに12球団1位だ。破壊力抜群の打線は誰もがよく知るところだが、じつは今季の巨人の総得点は中日より少なく、この「初回得点」の多さは、1番・坂本勇人から始まる打順がうまく機能していることを意味する。
パ・リーグの場合はDH制の関係で、初回得点(1番から始まる打順の得点力)が必ずしもチームの順位と直結しないが、セ・リーグは初回得点が打順効率もあらわすため、チームの順位と関連が高い。原巨人の強さの原動力は、効率の良い先制攻撃にある。
一方、中日はイニング得点よりも、イニング失点に“らしさ”が出ている。どの球団も投手の継投には苦労し、ほとんどの球団は試合後半の6回から8回のどこかで失点が山になるイニングがある。ところが中日は失点の山がなく、なだらかだ。
中継ぎの浅尾拓也、抑えの岩瀬仁紀の安定感もさることながら、そこへつなぐまでの継投のスムーズさが、なだらなかなイニング失点にあらわれており、落合監督の投手交代の巧みさが読み取れる。こんなふうにイニング失点に波のないチームは、中日と、パ・リーグの日本ハムだけだ。
ちなみに巨人は8回、ヤクルトは6回の失点が山になっている。多くの球団が「7回はこの投手、8回はこの投手」と勝ちゲームの継投を決めている中、巨人は山口鉄也と越智大祐の順番が流動的だったり、イニング途中の継投も多用する。このような自在性を持たせた投手リレーには、長所もあれば短所もあり、その難しさが8回の失点の多さにつながっているのではないか。
逆にヤクルトは、7回松岡健一、8回五十嵐亮太、9回林昌勇の明確なイニング担当制の継投で、それが「あと1イニング」という先発投手の引っ張りすぎによる6回の失点の多さを招いている感は否めない。
ヤクルトの得点力を支える縁の下の力持ち・宮本慎也。
そしてヤクルトの攻撃面の特徴は、5回と6回の得点が突出して多いことだ。5回に66点、6回に54点と荒稼ぎをしている。
6月14日のオリックス戦で、11打数連続安打のプロ野球新記録を樹立して、大量10点を奪ったのも5回の出来事だった。およそ打順が3巡目に差し掛かるイニングでの、集中打による得点こそ、スワローズの一番のセールスポイントである。
このデータの裏に、私はひとりの選手の存在を思い浮かべずにはいられない。宮本慎也、38歳だ。