カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:東京「喋りのセンス。」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2008/11/11 00:00
世の中を盛り上げる面白い「喋り」は大事だ。それは実力がモノをいう
スポーツ界においてもしかり。人前に出る以上、選手や監督であっても
エンターテインメント性のある喋りが要求されてしまうものなのだ。
久しぶりに体重計にのれば、予想通り、体重はビックリするほど増えていた。体脂肪率も23%を示していた。禁煙の反動というヤツである。
というわけで、さっそくスポーツショップに行き、某社のジョギングシューズを購入。神宮外苑の周回コースを歩いたり、走ったり、老体に鞭打ち体脂肪を燃やそうと、1時間ほど躍起になれば、なんと翌日、膝痛に見舞われる始末。ウォーキングさえままならない状態になった。デブにジョギングは無理と言われたようで、情けないやら、悲しいやら。
とはいえ、スポーティ度ゼロの生活を送っているわけではない。世の中のブームに煽られ、今年に入って約10年ぶりに再開したゴルフは、とりあえず、人前で恥をかかずに済むレベルまで回復した。プロっぽい弾道のショットも出るようになっている(たまーにではあるけれど)。
テレビでも、むしろサッカー以上に、ゴルフ中継に目を凝らしている。
国内の女子トーナメントは、いま群雄割拠の時代。20歳ぐらいの若手がいつも優勝争いに加わっているので、なにやら活気に満ち溢れている。それに比べて人気薄といわれた男子も、ここに来てグッと盛り上がりを見せている。先週のトーナメントで石川遼クンがプロ入り初のツアー勝利を飾ったからだ。
秀逸だったのは、18番のウォーターショットだけではない。涙声でウルウルになりながら答えた試合後のインタビューだ。
僕が最近聞いたスポーツ選手のコメントの中で、遼クンのこのインタビューは傑出した存在になる。17歳らしさ100%。爽やかで、清々しくて、スポーツマンらしくあり、笑いも誘えば、泣かせてもくれる。どうしたら、こんな良い子に育つのか。エンターテインメントとしても、これ以上は望めないインタビューだった。久々によいモノを見た気がした。
先日、総合格闘技への転向を表明した北京五輪柔道の金メダリスト石井慧も、面白いコメントを吐く選手だ。関係者の中には彼を好ましく思わない人もいるだろうが、まったく喋らない寡黙な人よりは断然良い。サービス精神はないよりあるに越したことはないのだ。
フェンシング銀メダルの太田雄貴も上々だ。石井同様、メディアに出過ぎのような気もするが、持ち前の爽やかさが、そのしつこさに勝っている感じだ。
翻ってサッカー界を見渡したとき、彼らのレベルに迫れる選手はいるだろうか。プレイのレベルはともかく、喋りだけでも、面白いことを言い出しそうな人はいないものか。
業界をリードする代表監督の話が面白くないところに問題がある。官僚のそつのない答弁を聞かされているようで、嘘臭い気分になる。
僕の知る限り、岡田サンは本来、面白い喋りができる人だ。笑いのセンスもあるはずだ。にもかかわらず、つまらない答弁を繰り返している。真面目を装っている。果たして、僕が岡田サンだったらどうするだろうか。官僚風を演じることは難しそうなので、やっぱり地でいきそうな気がする。
つまりよく喋る。でも、いくら頑張っても、遼クンの真似は絶対にできないだろう。僕が17歳で、ゴルフの腕前が遼クン並みにあっても、ダメだと思う。
さらに言えばだ。僕がアメリカ大統領候補で、マケイン候補を破り勝利を収めたとしても、オバマさんの真似はできないだろう。
オバマさんの勝利演説は、本当に凄かった。喋りのセンスに満ち溢れている。また、その当選を受けて発せられた各国首脳のコメントも、また総じて洒落ていた。良いこというじゃんと感心するコメントばかりだった。一方で、冴えないというか、いただけなかったのは、我らが首相のコメントだ。どうしてそんなつまらない反応しかできないの? オバマさんの勝利はあらかた分かってたことなんだし、気の利いたコメントを考える時間はあったわけだ。
野球評論家の高木豊さんは、若手期待のサッカー選手として知られる息子さんに常々、メディアの前では面白いことを喋れと、ハッパを掛けているのだそうだ。つまらない受け答えをしたときは、叱りつけることもあるという。
目指すは、口も八丁手も八丁というわけか。ともかく「喋り」が世の中を明るく盛り上げることは間違いない。決して明るいとはいえない世の中にあって、話術に優れた人物は貴重だし、つまらない話をする人にはブーイングを送りたくなる。人前に出る人には、世の中を盛り上げる義務がある。僕は強くそう思うのだ。