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バルサが下した決断。 

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横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

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posted2008/11/12 00:00

バルサが下した決断。<Number Web> photograph by AFLO

 バルサが19歳の選手と法廷で争っている。その話をしたいのだが、まずはこの裁判のカギとなる“メリダ裁決”から始めよう。

 全ての始まりは5年前、バルサにいたセスク・ファブレガスが16歳でアーセナルに入団したことだった。若い彼がまもなく活躍するのを見て、イングランドはスペインのカンテラに注目するようになった。その結果始まったのがビッグクラブの誘惑だ。マンチェスター・ユナイテッドはバルサにいた17歳のジェラール・ピケーを誘った。アーセナルは再びバルサから16歳フラン・メリダを、チェルシーはエスパニョールのエース候補だった17歳セルヒオ・テヘラを連れて行った。リヴァプールの下位組織には、去年の時点で6人ものスペイン人ティーンエイジャーが所属している。

 「少年らの夢をくすぐり、住むところを保証した上、スペインの10倍近いサラリーと奨学金をオファーする。とどめは世界のビッグクラブ、リヴァプールでプレイできるってことだ」

 一昨年アントニオ・バラガーンを、去年ダニエル・アヤラを奪われたセビージャの育成部門コーディネーターはこう言って嘆く。

 スペインでは18歳になるまでプロ契約を結ぶことができない。プロでないから、誘う方は多額の移籍金を払わずに済む。移る方は「住居変更」を申し出て、所属クラブとのアマ契約を解除するだけで事足りる。それでこんな事態に陥ったわけだ。

 しかし、スペイン側も指をくわえて見ているだけではなかった。最も大きな被害を受けているバルサが、まずはメリダを相手に金銭的補償を求める訴訟を起こした。直接アーセナルを訴えなかったのは、受け入れオファーを出すというモラル的な問題以外、責めどころがなかったからだろう。選手に対してなら、アマ契約の解釈に関して主張できるものがある。

 そしてちょうど1年前の今頃、バルセロナの陪審員法廷はバルサの言い分を認めた。メリダが一流クラブに入団したこと、U-17代表レギュラーという優れた選手であることがその理由だ。メリダは育成費の名目で320万ユーロ(約3億9000万円)の支払いを命じられた。

 「カンテラに力を入れているクラブにとっては重大な裁決だ。自分たちの仕事の成果を守る法的な道ができた。ビッグクラブの地位と財政力濫用も、これで防げるだろう」

 エスパニョールのスポーツディレクターも喜んだこれが、スペインの選手育成の世界では有名なメリダ裁決である。

 で、今年。この判例を盾に、バルサは昨季までユースチームにいたラウール・バエナという選手を訴えている。去年の夏Bチームのプレシーズン参加を許さなかったバエナが腐り、バルサを辞め、エスパニョールへ移ったからだ。当時彼は18歳。プロ契約はまだ結んでいなかったので、形としては英国移籍組と同じだ。

 先日の口頭弁論では、バルサ側が退団前のバエナの要求──Bチームでの試合出場──を明らかにし、契約解除の賠償金として求めている300万ユーロの妥当性を主張した。バエナは2002年にサインした契約書の各条項をしっかり読んでいなかったことを認めた。判決は今月末、代理人の証言を待って下される予定だ。

 この一件、天下のバルサが小金を寄越せと迫る“せこい”話にも聞こえるが、スペインのクラブにとっては非常に重要である。メリダ裁決に続き今回もバルサ勝訴となったら、選手を育てる側は決定的な法的サポートを得ることになるからだ。カンテラが強いクラブは選手育成・売却という運営基盤が保証され、弱いクラブは中長期の強化方針の見直しを求められる。アマ契約にはプロ契約の違約金に当たる解除条項が必ず付けられるようになるだろうし、10代初めのスカウティングはこれまで以上に重視されるようになるだろう。

 一方で、選手側の立場から、未成年を契約書で縛り搾取するのはどうかという声も出ている。タレントの成長の足枷になるケースも危惧される。たとえばセスク。アーセナルへ行かず、そのままバルサに残っていたら、今頃Bチームの主力か、せいぜいシャビ、イニエスタのサブだろう。前が詰まっているクラブで継続的にチャンスを得るのは難しい。

 しかし、だからといって「アマチュアは自由」にしてしまうと、選手育成そのものが伸びなくなる。幾つかのクラブは立ち行かなくなる。結局のところ、時間と金をかけて育て上げた選手はクラブの資産なのだから。

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