MLB Column from WestBACK NUMBER
「2世選手」に見るメジャーリーグ
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGettyimages/AFLO
posted2006/04/21 00:00
メジャーも開幕して早2週間が経過しようとしている。日本人選手の活躍ぶりを取材するため各地を飛び回る日々が始まったわけだが、この時期はメディアも選手同様、シーズン中の日々の“動き”を取り戻している最中だ。これがしっかり掴めると、取材旅行の日々を何とか乗り切れる態勢が整うようになる。その分今は疲労がピークの状態で、飛行機に乗るのがしんどい毎日が続いている。
それはさておき、開幕してすぐのこと、偶然にも日本にいた頃に慣れ親しんだ名前に再会することができた。「バーフィールド」と「フィールダー」。野球ファンの方なら聞き慣れた名前だと思うが、いずれも過去に日本球界に“助っ人外人”としてやって来た選手の名前だ。1993年に巨人に在籍し、これぞメジャーという強肩を披露したジェシー・バーフィールド氏。そして1989年に阪神でプレーし、38本塁打を記録したセシル・フィールダー氏。今回は彼らではなく、今季から開幕メジャー入りを果たしたその息子たちと遭遇することができたのだ。
“ジョッシュ”・バーフィールド選手は今季からパドレスの正二塁手に抜擢された。昨季までマーク・ロレッタ選手(現レッドソックス)が長年二塁に居座っていたのを、彼を放出してまでも起用したのだから、パドレスのバーフィールドに対する期待の高さがわかるだろう。父親のような長距離打者ではないが、走攻守とも三拍子揃った選手(余談だがアメリカでは“five tool player”と呼ぶ)だ。開幕戦こそメジャー初安打を放ったものの、やはりメジャー初昇格だけに厳しい日々が続いている。それでも首脳陣は打順を2番に固定。明らかに彼の成長を見守っているからだ。
“プリンス”・フィールダー選手は開幕からブルワーズの一塁手を務め、昨年後半にメジャー初昇格を果たし、今年は新人賞の呼び声も高いスラッガーだ。やや太り気味の体型と天性の飛距離はまさに父親譲りだが、父と違うところは左打者だということ。開幕当初こそ安打が出なかったが、1本打ってからは期待通り安定した打撃をみせている。両選手ともに父親がメジャーでもかなりの実績を残しているだけに、ここアメリカでもメディアの関心はかなり高い。昨年もロッテなど10年間日本でプレーしたレオン・リー氏の息子で、カブスのデレック・リー選手が首位打者に輝く活躍をするなど、彼らのような2世選手の登場が、日本のメジャー・ファンをさらに増やす要素になってくるのではないか。
ところで、日本で2世といえば国会議員ばかりなのに、メジャーでは次々に2世選手が登場するのはなぜだろうか?現在スター選手の中にも2世選手の多いことといったら半端ではない。バリーボンズ選手を筆頭に、ケン・グリフィー選手、モイゼス・アルー選手──等々、次々に名前が挙がってくる。日本なら野村克則選手、長嶋一茂氏ぐらいしか思い浮かばない上、彼は偉大な父親たちと肩を並べるような活躍ができていない。しかしメジャーの2世選手たちは、多くの選手が父親を上回るような活躍をしているのだ。
これは、長年メジャーの取材をしてきて感じることなのだが、メジャー各球団の選手たちの家族に対する“思いやり”の現れなのだと思う。1年の半分近く家族と離れる選手たちにとって、家族と過ごす時間は貴重この上ない。だからチームによってはシーズン中に家族も参加できる遠征を設けたり、家族との時間を少しでも増やせるようにホーム球場を家族に開放したりすることが、至極当然のことになっている。先日もカージナルスの遠征を取材した際、スピージオ選手が2人の息子にユニフォームを着せ、試合前の練習を体験させていたのを目撃したのだが、これなどはメジャーで見られる日常茶飯事の光景だ。
同じく数年前だが、吉井、大家両投手の取材でモントリオールにいたときのこと。試合前の練習でブラディミール・ゲレロ選手の息子を相手に、アンドレス・ガララーガ選手が付きっ切りで打撃指導をしていたことがあった。物凄く羨ましく思った反面、こういう経験を経て選手の子供たちが父親に憧れながら野球を目指していくのだと実感したものだ。
日本のファンが日本球界出身の外人選手の2世選手に関心を持つように、アメリカでも2世選手の活躍は世代を超えてファンの人気を集めることになり、それが連綿と続くメジャーの歴史をさらに華やかなものにしているといっていいだろう。
日本でも球団がメジャーのようなちょっとした心遣いをしていけば、2世選手が誕生する素地が築けるはずだ。もちろん日米の環境の違いから、すべてメジャーの真似をするのは無理だろう。だが長嶋親子や野村親子が「親子鷹」などと騒がれたように、日本でも2世選手が活躍するようになれば、さらにファンを魅了してくれると思うのだが如何だろう。