MLB Column from USABACK NUMBER

好発進メッツ・ファンの不満二つ。
~美人妻放出と松井稼頭央~ 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2006/04/26 00:00

好発進メッツ・ファンの不満二つ。~美人妻放出と松井稼頭央~<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 開幕から2週、10勝2敗でメジャー・ベストの成績と、メッツが快調なスタートを切った(以下、数字は4月17日現在)。ビリー・ワグナー(クローザー)、カルロス・デルガド(一塁)、ポール・ロデューカ(捕手)と、シーズンオフに敢行した大型補強がまんまと成功、早くも、「リーグ優勝はメッツで決まり」の呼び声が高い。

 贔屓チームがこれだけ快調なスタートを切れば、ふつう、ファンは、幸福感と満足感に浸りきるものだが、メッツ・ファンの場合、必ずどこかに不満の種を見つけないといられないという習性があり、100%満足するということがありえない(この習性はヤンキース・ファンにも共通する)。好調なチームの足を引っ張ったり、引っ張りそうな可能性のある選手に対しては、どんなにチームが快進撃を続けていようとも、容赦なくブーイングを浴びせることをいとわないのである。

 現在、そんなメッツ・ファンの容赦ないブーイングの標的となっているのが、救援投手のホルヘ・フリオだ。登板してはめった打ちにあい、現在、防御率はなんと15.43、ブーイングされてもしかたがない数字なのだが、よりによって、フリオは、シーズンオフに、あのクリス・ベンソン投手を放出した際の交換相手だった。フリオが打たれるたびに、メッツ・ファンは、「ベンソンを戻せ」とシュプレヒコールを繰り返しているのである。

 ベンソン投手のトレードが、実は、男性誌でヌードになったり、旦那のチームメートを批判したりと、何かと物議をかもす言動を繰り返した、「美人妻」のアナさんを「放出」するのが目的だったということは、本コラムで以前に紹介した。「ベンソンを戻せ」というシュプレヒコールが、旦那のベンソン投手の復帰を希望するものであるのか、夫人のアナさんの復帰を希望するものであるのかは定かでないが、「美人妻」のトレードが大損の結果に終わったことだけは確かなだけに、ファンは怒り狂っているのである。メッツ・ファンはただでさえ「我慢」ができないことで知られるだけに、フリオの場合、あと2,3回打たれたら、「首を切れ」という大合唱が起こるのは間違いないと見られている。

 一方、「足を引っ張るかもしれない選手」として、メッツ・ファンが、今からブーイングを浴びせる用意をしているのが、松井稼頭央だ。故障続きという不運に見舞われたとはいえ、2年続けて期待を裏切ったとあって、もともと我慢が苦手のメッツ・ファンにとって、松井に対する堪忍袋の緒はとっくに切れているのである。

 さらに、怪我に加えて松井にとって不運だったのは、1年目も2年目も、ファンの「お気に入り」の選手とポジションを争う、「悪役」を演じさせられたことだった。1年目はチーム一の若手有望選手、ホセ・レイエスから遊撃のポジションを奪う役回りだったし、2年目は渋いベテランとしてファンに人気があったミゲル・カイロ(今季ヤンキースに復帰)から2塁のポジションを争うという巡り合わせで、松井自身は何も悪いことはしていないのに、2年とも、シーズンが始まる前からファンの反感を買う条件が整っていたのだった。

 現在、メッツ・ファンは、松井の名がアナウンスされただけでブーイングするところまで松井に対する嫌悪感を強めている。開幕から欠場中の松井の穴を埋めているのは、打率1割4分6厘とからきし打てないアンダーソン・ヘルナンデスだが、守備は抜群にうまく、「打てなくてもいい、松井の拙い守備を見るよりまし」と思っているメッツ・ファンは多いのである。

 というわけで、近々復帰する松井にとって、復帰後の道がとりわけ険しいものであることは間違いがない。しかし、いくら激しいブーイングが待っていようとも、ニューヨークのファンは、「忘れっぽい」ことでも有名なのだから、早まって落ち込む必要はない。私は、一昨年、松井がヤンキース相手に2本ホームランを打った試合を観戦したが、それまでブーイングを続けていたファンが、手の平を返したように、スタンディング・オベ―ションをするシーンを目撃した。昨年のヤンキースのジアンビもそうだったが、打ちさえすれば、ブーイングがすぐにスタンディング・オベーションに変わるのも、ニューヨークの習いなのである。松井には、ブーイングなど気にせず、悔いを残さないよう、力一杯のプレーを期待したい。

松井稼頭央
ニューヨーク・メッツ

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