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オランダに挑む日本人監督。 林雅人 

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木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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photograph byShinya Kizaki

posted2007/02/26 00:00

オランダに挑む日本人監督。 林雅人<Number Web> photograph by Shinya Kizaki

 オランダ人の子供たちに囲まれながら、林雅人は勢い良くトロフィーを掲げた。

 「3位決定戦で負けたのは残念ですけど、トロフィーの大きさは同じだから良しとしましょう!」

 2月中旬、ドイツのドルトムント近郊でU11の室内サッカー大会が開催された。ドルトムント、シャルケ、ヘルタ・ベルリン、ハンブルガーSVといったドイツの名門クラブだけでなく、オランダからフィテッセ、ユトレヒトなど計24クラブが参加した。GKを含めて5人対5人でプレーする、ミニサッカー大会である。

 その会場に、ひとりの日本人監督の姿があった。

 林雅人、29歳。日体大を卒業した後、オランダに渡り、オランダサッカー協会の監督講習に通い続け、ついに昨年夏、1級免許を取得した人物だ。講習に通う傍らフィテッセのU19でコーチとして働き、その仕事ぶりが評価されて、今季U11の監督に抜擢された。日本人がオランダのプロクラブで監督になるのは初めてのことだ。

 「自分がU19のコーチをしているとき、ユースから6人がプロに昇格したんですよ。そのうち4人が、1軍のレギュラーになった。コーチが優秀だったということですかね(笑)」

 今、林のU11のチームには、オランダ中が注目するタレントがいる。ドレッドヘアをなびかせて、まるでダンスをするかのように相手の間をすり抜ける天才ドリブラー。その少年の名前はイサ・カロン。インテルやASモナコで活躍したモハメド・カロンのいとこだ。

 「このままいったら、イサは間違いなくオランダを代表する選手になる。すでにフェイエノールトが獲得に動いているのが嫌なんですが(笑)。彼は気分屋だから、常に声をかけるようにしてます」

 イサと廊下ですれ違うと、「ゲンキ!」と日本語で挨拶してきた。林に習ったのだという。「こっちがオランダ語で挨拶してるんだから、向こうも日本語で答えるのが礼儀でしょう」というのが林の主張。いずれイサはフィテッセから羽ばたく日が来るだろうが、日本人から指導を受けたことは一生忘れないはずだ。

 林が評価されているのは、育成の能力だけではない。先日、林は1軍のアデモス監督からの依頼で、ローダ戦のスカウティングを担当することになった。林はローダの試合に足を運び、分析結果を監督の前で発表した。すると、アデモス監督は嬉しそうにこう言ったという。

 「素晴らしい分析だ!10点満点のうち、8点をあげよう。これからは1軍の戦術会議に自由に出席してくれ」

 戦術好きのオランダ人を、日本人がうならせる──。林にとって、これほど痛快な瞬間はなかっただろう。

 ドルトムント近郊の大会で、林率いるフィテッセU11は1次リーグを突破し、2次リーグでは2位になって3位決定戦にまわった。残念ながらビーレフェルトにPK戦で敗れたが、ドルトムントやニュルンベルクを蹴散らして4位になったことは、子供たちにとっても、監督にとっても大きな自信になったはずだ。

 「今日は、ホントいい経験をしました。今はまだオランダに残っていろんなことを吸収するつもりですが、いつか日本のクラブで働きたい。育成をレベルアップさせることで、日本のサッカーは変わると思うから」

 日本人がオランダのサッカーを学び、オランダの指導者界でもまれ続けている。オランダ流でも、日本流でもない、新たなスタイルが生み出されることを期待したい。

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