チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
コマとしてのファンタジスタ。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byGetty Images/AFLO
posted2007/04/10 00:00
「アイマール風でありながら、アイマールよりシャープ。けれんみがない。アイマールを放出した理由が、分かるような気がする」とは、およそ半年前に、このコラムに僕が記したシルバ評だが、いま彼について、改めて触れる必要性が生じてきた。
決勝トーナメント1回戦、対インテル戦(第1戦・アウェー)で決めたボレーも美しかったが、先日行われた準々決勝対チェルシー戦(第1戦・アウェー)のミドルシュートは、それ以上に鮮やかだった。
チャンピオンズリーグに新人賞の表彰があれば、間違いなくシルバの頭上に輝くだろう。飛ぶ鳥を落とす勢いとは、彼のための言葉に思える。
左利きのテクニシャン。公称170cmながら、実際はそれよりずっと小さく見える。だが、スケールの小ささは感じない。本当に巧い選手なのだけれど、巧いだけの選手では全くない。極めて現実的な選手。使い勝手の良い選手だ。アイマールよりも数段。
最先端を行く、モダンな選手だと思う。守れて、動けて、走れて……俊敏で、緊迫感があって、多機能的で、決定力もある。うるさいオシムのお眼鏡にも、十分叶うはずだ。バレンシアという規律に富んだチームの中に、綺麗にすっぽりはまっている点に、なにより驚かされる。その枠組みの中で、完璧な技巧を発揮する。“ファンタジスタ”にありがちな、良くも悪くも甘いプレイは一切ない。変な癖のないところが魅力だ。
チーム全体に、ハードなテイストが漂うチェルシーに対しては、とりわけ有効なコマになる。プレミア系すなわちマンチェスターU、リバプールに対しても、けっして甘くないシルバの技巧は、嫌らしさを発揮するはずだ。
日本人選手には格好の教材だ。厳つい外国人選手に対して向かうとき、有効なカードとなるのはまさにこれ。小柄でけれんみないテクニシャンが必要だと、シルバを見ているとつくづく思う。日本の環境から、誕生してくる可能性は十分にある。少なくとも、イングランドやドイツ以上に。
スペイン人選手の中には、シルバに代表されるように日本人選手に特徴が似ている選手が多くいる。チャビ、イニエスタもそうだ。セスク・ファブレガスもしかり。サイドアタッカーだが、セビーリャのヘスス・ナバスも小柄なテクニシャンだ。親戚関係のようにさえ見える。しかし日本人のファンタジスタ系とは、多機能性という点で大きな開きがある。あくまでもコマの一人だという認識を、彼らの方が強く持ち合わせている。
外攻め重視のスペインに対し、内攻め重視の域を未だ脱し得ない日本。この差も大きく影響している。真ん中が主役で、サイドは端役という日本の常識は、スペインにはない。シルバはトップ下もこなせば、サイドハーフもこなす。少しも苦にすることなく。
バレンシアでは、センターバックと守備的MFも頻繁に入れ替わる。アルビオル、マルチェナの両者は、試合毎にポジションを入れ替えるといっても良いほどだ。また、左サイドバックを務めていたモレッティも、デル・オルノの復帰に伴い、センターバックにコンバートされている。
日本では滅多に見られないことが、普通に起きている。小柄なテクニシャンが多いという点で両国の特徴は似ているが、サッカーゲームの捉え方には、依然として大きなギャップがある。硬直化しているのは日本の方だ。日本のファンタジスタが、変な拘りを持つ頑固なプレイヤーに見えることとも深い関係がある。日本にも最近変化の兆しが見えるとはいえ……。
「●●中心のチーム」なる言い方は、死語として葬りたい。●●には俊輔とか、大抵において10番系選手の名前が入るのだが、そうしたサッカーでは、チャンピオンズリーグは勝ち抜けない。W杯の本大会も同様に勝ち抜けない。シルバ中心のチームではないところが、バレンシアの魅力。僕が一押しする、ダークホースの行方はいかに。