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今季の楽天は大化けする!!
野村克也の後任監督が優勝する
わけ。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/01/16 08:00
緊張と緩和。組織とは、畢竟(ひっきょう)、このバランスなのだと思う。どちらに傾き過ぎても「平均台」の上を上手に歩くことはできない。
全国優勝の経験もある高校野球の監督が、こんな話をしていたことがある。
「それまでずっと厳しくしていた監督が辞めて、おおらかな監督に変わった途端、ポッと強くなることがある。張り詰めていたものが緩んでちょうどいい状態になるんですよ。でも逆はないですね。監督を代えて、それまでの緩みを締め直そうとしたら、やっぱり最低でも3年はかかる」
そんな話を思い出したのは、ある野球解説者が、最近、西武について似たような分析をしていたからだ。
「あそこは前監督の伊東(勤)さんがけっこう厳しくやっていたでしょう。それで選手たちともギクシャクしていた。そんなときに放任主義の渡辺(久信)さんがやってきた。就任1年目はうまい具合に結束したんですよ。そういう状況だと、おおらかな監督というのは求心力を得やすいですしね。でも、それが通用するのは1年だけ。勝ち続けるには厳しさも持ち合わせていないと無理ですよ」
野村監督からの「親離れ」の時期を迎えていた楽天。
そんな見方を用いると、今季、恐ろしいチームがいることに気づかされる。そう、楽天だ。
前監督の野村克也氏は、縛って、縛って、縛り付けた。サインプレーなどが多すぎて、投手陣からは「投球に集中できない」と不平不満もあったが、当時、まだよちよち歩きだった楽天にとっては、そういう「義務教育」が必要な時期でもあったのだろう。しかし、それが功を奏するのは草創期もしくは再建期だけだ。
チームが強くなってくると、そのバランスは微妙に崩れ始める。自立し始めた選手の中に監督を疎む気持ちが芽生えるのだ。親離れの時期を迎えた子が、親をうっとうしく思うのと同じだ。そんな風の変化を読み違えると、せっかく上昇気流が生まれても、それに乗り損ねてしまう。昨季の楽天は、まさにそんな状況の真っ直中にあった。風をつかまえたり、見失ったり、そしてまたつかまえたり、と。
楽天の上昇気流は、今はまだ勢いを失っていない。そして、そんなタイミングで、監督交代劇が起こったわけだ。この人事は、これまで挙げた2人の証言に照らし合わせると、これ以上ない吉兆なのではないか。
野村氏が残留していたとしてもそれなりの結果は残しただろう。だが、ブラウン監督にバトンタッチしたことで、絶妙な時期での「緊張」から「緩和」という黄金リレーが成立したことになる。楽天が大爆発しそうな予感がプンプンするではないか。