F1ピットストップBACK NUMBER
同じ賭けに勝ったベッテルと可夢偉。
モナコの女神に愛された2人を検証。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/06/01 10:30
マシンを止め、モナコGP初勝利の喜びをシャンパンシャワーで爆発させるベッテル。未来のモナコ・マイスターの誕生か?
バトン、ベッテル、アロンソの戦術が分岐して……。
激しいバトルで9番手争いを繰り広げていたマッサとハミルトンが交錯。マッサがガードレールにクラッシュして、セーフティカーが導入されるのだ。
そして、この前後でのトップ3――バトン(マクラーレン)、ベッテル(レッドブル)、アロンソ(フェラーリ)――の対応がいずれも異なり、それがその後のレース展開に大きな影響を与えることとなる。
まずトップを走行していたバトンはセーフティカーが導入される直前に2度目のピットストップを済ませていた。しかも、このときバトンはそれまで履き続けてきたタイヤと同じスーパーソフトに履き替えたため、レギュレーション上、もう1度ピットインしてソフトタイヤに交換しなければならなかった。しかし、直後にセーフティカーが導入されたため、5周もの間、セーフティカーの後方で足止めを食らうこととなる。
セーフティカーが導入されたタイミングでピットインしたのが3番手のアロンソ。
17周目に1回目のピットストップを行っていたアロンソは34周目に2度目のピットストップを行い、ソフトタイヤに履き替えて残り44周を走りきるという2ストップ作戦を敷いてきた。
残り16周。3台が1秒以内でしのぎを削る過激なバトルが!
一方、16周目にピットインしたベッテルは動かなかった。
78周で争われるモナコGPは、まだ62周残っており、通常であればもう1回ピットインするのが定石。じつはチームも45周目に「バトンはもう1回入らなければならないから、そのタイミングでピットインしてタイヤを変えようか」と打診していた。ところが、ベッテルは「ここまで来たら、1ストップに賭けてみよう」と、ギャンブルに出たのである。
48周目に3度目のピットインを行ったバトン。
レースは、32周を走行し摩耗したタイヤのまま再びトップに立ったベッテルと、14周目に入ったばかりのタイヤを履く2番手のアロンソ、そして新品に交換したばかりの3番手バトンによって、残り30周の戦いへと突入。残り16周の段階にしてトップの3台が1秒以内にひしめき合うという、近年稀に見る大接戦のレースとなるのである。
そして、ここでモナコの勝利の女神はまたもルーレットを回す。