F1ピットストップBACK NUMBER
同じ賭けに勝ったベッテルと可夢偉。
モナコの女神に愛された2人を検証。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/06/01 10:30
マシンを止め、モナコGP初勝利の喜びをシャンパンシャワーで爆発させるベッテル。未来のモナコ・マイスターの誕生か?
「クレイジーなレースだったよ!!」(ベッテル)
69周目に周回遅れに下がろうとしていた集団の中で多重クラッシュが発生。
2度目のセーフティカーが出動した後、72周目に赤旗が出されて、レースが一時中断されたのだ。
この中断によって、タイヤ交換が可能になったベッテルは、56周履き続けたタイヤを新品タイヤに交換する絶好のタイミングができた。逆に2番手のアロンソと3番手のバトンは、これからベッテルを追い詰めようとしていた矢先の赤旗に、追撃のチャンスを逃す結果となった。
「ちょうど、攻撃態勢に入ったところだったのに……」と1.1秒差の2位に終わったアロンソが唇を噛みしめれば、「最初のセーフティカーがあのタイミングで入らなければ違った展開になっていたと思う」と逆転できずに3位でフィニッシュしたバトンも肩を落とした。
そして、モナコで初優勝を遂げたベッテルは、こう言った。
「クレイジーなレースだったよ!! 土曜日に回り始めたルーレットが今日も回り続けていたんだから」
そして、もうひとり、この日モナコでギャンブルに勝ったドライバーがいた。
それは小林可夢偉である。
「ライバルたちが同じ作戦を敷いてこないことだけを祈った」
フリー走行で一発の速さをうまく引き出せないと悟った可夢偉とチームは、レースに向けて大胆にも1回ストップ作戦を立てるのである。
「ピレリタイヤでも1回ストップで行ける自信はあった。あとはライバルたちが同じ作戦を敷いてこないことだけを祈った」という可夢偉。
12番手からスタートしてみれば、ライバル勢は軒並み2回以上のマルチストップ。32周目には4番手まで浮上することに成功する。
さらに33周目にセーフティカーが導入され、レース中盤でピットストップを計画していたチームはすかさず可夢偉をピットに呼び、ソフトからスーパーソフトへタイヤを交換し、5番手でコースに復帰。
残り44周をノンストップで走りきるのである。