F1ピットストップBACK NUMBER
同じ賭けに勝ったベッテルと可夢偉。
モナコの女神に愛された2人を検証。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/06/01 10:30
マシンを止め、モナコGP初勝利の喜びをシャンパンシャワーで爆発させるベッテル。未来のモナコ・マイスターの誕生か?
モナコ市街地サーキットの第4コーナーを、人々はこう呼ぶ。
「カジノ広場」
シャルル・ガルニエによって建築された国営カジノの前を78回にわたって周回するモナコGPのことを、ドライバーたちはこう呼ぶ。
「レースはまるでルーレットのようだ」と。
ガードレールに囲まれたモナコ市街地コースで行われるレースは、常にアクシデントが発生するリスクがあり、そのリスクマネージメントをいかに行うかによって勝敗の行方が大きく変わってしまうことが少なくないからだ。
そして、69回目のモナコGPは、まさにカジノでルーレットを回して楽しむギャンブルのような展開の中でレースが進められた。最初のルーレットで外れクジを引き当てたのは、ベッテルだった。
トップを走るベッテルが、ピットストップで痛恨のアクシデント。
抜き所がほとんどないモナコで、優勝にもっとも近いと言われるポールポジションから絶妙のスタートを切ったベッテルだったが、1回目のピットストップ時に不運が襲う。レースエンジニアから発せられた無線がドライバーには伝わっていたが、メカニックにまったく伝わっていなかったのである。ベッテルがピットロードに向かう段階になって、事態に気づいて慌てたメカニックたち。通常より静止時間が約3秒長かったのはそのためだった。さらにこのとき、エンジニアとの意思の疎通を欠いていたメカニックたちはチームが意図したタイヤと異なるソフトを装着させてしまう。
静止時間でロスしたベッテルは、1周前にピットストップを済ませ、より軟らかいスーパーソフトに履き替えて猛ダッシュしていたバトンに走行ペースでも置いていかれ、ついにトップの座を譲ってしまう。
16周目に入れ替わった2人の差は周回を重ねるごとに開き、30周目には14秒にまで広がる。
「勝利が遠のいていくようだった」と、そのときの心境を語ったベッテル。さらにこのときベッテルの後方にはスタート直後に3番手に浮上していたアロンソが接近してきており、2位の座も危うい雲行きだった。
しかし、ここでモナコの勝利の女神がルーレットを回すのである。