チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
したたかな交代。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byDaisuke Nakashima
posted2008/12/08 00:00
確かに、マルコス・セナは、マンUの選手から再三、激しいプレッシャーを浴びていた。彼の足は、少なからず傷ついていた。だが、彼はビジャレアルの押しも押されもせぬ中心選手だ。彼がピッチを去れば、マンUがペースを握る可能性は高いわけで、「もう少し頑張ってくれ!」と、普通の監督なら言いたくなるはずだ。
しかし、チリ人の名将は、目先の勝利を欲しがろうとしなかった。このまま行けばベスト16入りが確実だったことも理由のひとつだろうが、とはいえこれは、ホームでのマンU戦だ。“エル・マドリガル”を満員に埋めた地元ファンが、欧州ナンバーワンクラブから、勝利を挙げる瞬間を見たがっていることは明らかだった。
ビジャレアルの人口は5万人弱。チャンピオンズリーグに出場しているチームの中で、おそらく最も小さい街になる。32チーム中最小のクラブが“大”の象徴であるマンUを下すことは、まさに大番狂わせに相当する。
“小”がつい抱きたがるその期待を、ペジェグリーニ監督はあっさり裏切った。目先の勝利より、今後の“幸”を欲したからに他ならない。戦いはまだ続く。先は長い。マルコス・セナの交代には、ペジェグリーニのそうしたメッセージが込められているようだった。
僕がファンなら、間違いなくこのチリ人監督の肩を持つ。今後への可能性を抱かせる余裕の交代だと、全面的に賛同する。そのしたたかな精神に対して、目先の1勝より、何倍も勇気づけられているだろう。
スター選手ではないけれど名選手。強豪ではないが好チーム。マルコス・セナとビジャレアルと、そして知る人ぞ知る名将、ペジェグリーニの今後はいかに。