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したたかな交代。 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byDaisuke Nakashima

posted2008/12/08 00:00

したたかな交代。<Number Web> photograph by Daisuke Nakashima

 前回、僕はこのコラムで、司令塔は重心が低いほうが好みだと言ってマルコス・セナのプレーを例に挙げた。しかしである。舌の根の乾かぬうちで恐縮だが、いまはそれについて少しばかり訂正を加えたい心境だ。

 久しぶりにナマで見たマルコス・セナのポジションが、僕のイメージしていた位置と、少しばかり違っていたからだ。それは具体的には、ビジャレアルにまだリケルメのいた頃のイメージであり、先のユーロで、スペイン代表の一員としてプレーした位置になるが、僕の最新の目によれば、ボランチというよりセンターハーフ。彼はほぼピッチの真ん中でプレーしていた。低い位置でプレーしていたわけではない。

 11月25日、マンチェスター・ユナイテッドとのホームゲームに臨んだビジャレアルは、4-4-1-1の布陣を敷いていた。少なくとも僕にはそう見えた。小兵のイタリア人ストライカー、ロッシのその脇で構えるベテラン、ピレスが、その下の列と同等に見えなかったことが、理由のまず1点。もうひとつは、その下で構える中盤の4人が、ほぼフラットに見えた点にある。

 その4人を、従来のように攻撃的MFと守備的MFに分ければ、4-2-3-1という表記の方がしっくり来るのだが、4人がフラット見えた場合はそうはいかない。4-4-1-1と表記したくなる。

 つまりマルコス・セナも、そのフラットな中盤を形成するひとりとしてプレーしていた。岡田ジャパンの遠藤や、長谷部より、何mか高い位置で構えたわけだ。

 自ずと、相手からのプレッシャーはきつくなる。実際、マンUの選手たちは、マルコス・セナに、プレッシャーをガンガンかけた。反則まがいのプレーで、ビジャレアルの中心選手を潰そうとした。

 しかし、マルコス・セナは動じなかった。僕の知る限り、ミスらしいミスを犯したのは一度だけ。高い位置でも、彼は安定度抜群のプレーを披露した。ボランチ的な風格で、ゲームを仕切ったのである。

 つまり、ビジャレアルの頭脳は、ピッチのほぼ真ん中に位置していた。

 プレッシャーのかかる位置で、ほぼノーミスで通しただけではもちろんない。大袈裟に言えば、すべてのプレー、すべてのボールタッチが、マンUが構える守備陣の逆、逆を突いていた。ピッチの隅々まで、視野が広角に開けていなければ、不可能なプレーであることは言うまでもない。それに根っからの逆を突くセンスとが重なり合った結果だが、ピッチを俯瞰で眺めると、その鮮やかなボール操作に「巧い!」と唸ることしきりだった。

 基本的にサッカーは、逆を取るゲームだと言われる。相手の逆をいかにして突くか。それこそが、サッカーの醍醐味だとさえ言い切れる。日本人の選手にも、逆を取ることが巧い選手はいるが、たいていは目の前の相手に限られる。相手選手すべての逆となると、絶好調時の小野、遠藤ぐらいしか思い浮かばない。

 もちろん、それはJリーグレベルに限られた話だ。チャンピオンズリーグのディフェンディングチャンピオン相手に、ピッチ上で起きているすべての情況に見通しを利かすこのとできるすごさ。これこそがマルコス・セナの真髄だ。

 もっとも、この試合でそれと同じくらい感激したことがある。そのマルコス・セナを前半でピッチから退かせたペジェグリーニ監督の采配だ。

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