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それでも松井秀喜は移籍する!
ワールドシリーズ男の微妙な立場。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2009/11/06 12:00
ヤンキースのユニフォームを着て、ワールドシリーズでとてつもない活躍をするのは、「伝説」として名を残すということである。地方都市の球団でMVPを取るのとは、ワケが違う。
1977年に3打席連続本塁打を放ち、「ミスター・オクトーバー」と呼ばれたレジー・ジャクソンと、1956年のワールドシリーズで完全試合を達成したドン・ラーセンは、伝説上の“横綱”だ。
松井の1試合6打点の活躍は、“大関”に相当すると思う。
しかし、伝説として生きるジャクソンとラーセンには、ヤンキースの松井を愛するファンにとっては不吉な共通点がある。
ふたりとも、ヤンキースとは別のユニフォームを着て引退したのだ。
じゃあ、松井は――。来季から別のユニフォームを着る可能性は今も高いままだ。
ワールドシリーズMVP獲得で移籍の可能性は減ったのか?
前々回のコラムで、私は松井秀喜のヤンキース残留の可能性は低い、と書いた。今もその考えは基本的に変わっていないが、さすがに超弩級の活躍によって風向きは少し変わった。
ニューヨークのメディアは競争が激しく、空気を読むのに敏感だ。『デイリー・ニューズ』のコラムニスト、ジョン・ハーパーは「MVPの松井を失うのはヤンキースの過ち」と早くも松井残留キャンペーンを始動。
高級紙『ニューヨーク・タイムズ』では、「ヤンキースはスーパースターだけではなく、信頼できるベテランが支えてきたチームだ。そう、松井秀喜のように」と大絶賛し、来季以降の契約更新を促す論調になっている。
「アンチ・エイジング」が急務であるヤンキースの裏事情。
この問題を考えるにあたり、なぜ松井はヤンキース残留の可能性が低かったのかを考える必要がある。
問題の核心は、ヤンキースが「アンチ・エイジング」を図る必要に迫られているからだ。優勝を決めた第6戦のラインナップを年齢付きで見てみよう。
守備位置 | 選手 | 年齢 |
---|---|---|
(遊) | ジーター | 35 |
(左) | デーモン | 36 |
(一) | テシェイラ | 29 |
(三) | ロドリゲス | 34 |
(DH) | 松井 | 35 |
(捕) | ポサダ | 38 |
(二) | カノー | 27 |
(右) | スウィッシャー | 28 |
(中) | ガードナー | 26 |
このチーム、かなり高齢化が進んでいるのが分かるだろう。これでよく勝ったと思うが、ベテランたちは峠を越しているとはいえ、只者ではないことをワールドシリーズで証明した(特にジーター)。
いま絶頂期にあると言えるのは、テシェイラ、カノーの両選手だけで、他の球団だったらベテランはトレードに出されるところだ。
しかしジーター、ポサダに関しては1990年代からの生え抜きで、絶対にトレードには出せない。これにクローザーのマリアーノ・リベラ(11月29日で40歳を迎える)を加えた3人は、人事異動的には「アンタッチャブル」だ。彼らが消えたら、ヤンキースの文化は崩壊する。