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それでも松井秀喜は移籍する!
ワールドシリーズ男の微妙な立場。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2009/11/06 12:00
キャッシュマンGMも来季の若返りを宣言。
ただ寄る年波には勝てないのも確か。それが端的に表れるのが守備で、年を取ると機動力が失われ、足の運びが遅れる。ポサダのキャッチングが不安なのは足の衰えから来るものだし、A・ロッドとジーターの三遊間はかなり危うい(フィリーズの三遊間とは比べ物にならなかった)。ワールドシリーズを見ているだけでも、彼らをDHで使いたい誘惑に駆られるのは理解できる。
ヤンキースのキャッシュマンGMはかねてから若返りの必要性を訴えており、早いところ若くて守れる選手を登用したい。
ワールドシリーズ第6戦、9番中堅で先発したガードナーは、来年レギュラーとして定着するだろう。経済的な側面で言えば、彼の今季の年俸は4千万円に満たず、コストダウンにもつながる。
松井不要論の根拠は、アンチ・エイジングだったのである。
コストパフォーマンスを考えれば残留の可能性は10%。
ではいったい、松井残留の可能性は現時点でどれくらいあるのだろうか?
ワールドシリーズ第6戦のアメリカの中継では、「松井、デーモン、メルキー・カブレラの3人がそろって残ることはあり得ない」と伝えていたが、私の個人的な考えではワールドシリーズ第5戦までの時点では5%ほどだったものが、10%くらいまで盛り返した――それでも10%だ――と考えている。
GMという仕事はプレーオフのことを考えてはチーム作りをしない。まず、162試合をどう乗り切るか、そのためにベストの25人をチョイスする。その内訳はこうだ。
●投手 11~12人
●捕手 2人
●野手 9人か10人
●DH 1人
日本と違って、ほとんど控え選手を置けないので、「ユーティリティ・プレイヤー」と呼ばれる内外野両方守れる選手、そしてスイッチヒッターが重宝される。
現時点のヤンキースで、DHしか出来ない松井の価値は低い。大活躍をしたとは言っても、あくまでそれは短期決戦での話である。162試合をトータルで考えると、ワールドシリーズ第4戦に盗塁で勝利をたぐり寄せたデーモンの価値の方が高くなってしまう。
コストパーを重視すれば、松井の残留はほとんどないと見ていい。
ヤンキース以外の球団であれば極めて高い価値を持つ松井。
これはあくまでヤンキースの話であって、他球団となると話は違う。
DHとしての松井の評価は極めて高い。3年契約は勝ち取れるほどの市場価値があるだろう。CBSSports.comが発表した来季の選手予想ランキングで松井は、ゲレーロ(エンジェルス)、オルティーズ(レッドソックス)についでDH部門で3位に入っている(個人的にはオルティーズより上だと思いますが)。
DHを本気で探している球団、タイガース、ホワイトソックス、マリナーズあたりは喉から手が出るほど欲しいだろう。それに資金の潤沢な球団、レンジャース、レッドソックスあたりが獲得レースに絡んでくるのではないか。ナショナル・リーグの球団は守れないリスクが怖くて、なかなか手を出しにくいだろう。
松井の交渉はヤンキースが11月5日から15日間、優先的な交渉権を持っており、松井のヤンキースへの去就は2週間以内に決まる。そこで契約がまとまらなければFAとなり、全球団と交渉が可能になる(ここでもう一度、ヤンキースと話すこともありうるが)。
そのなかには、ひょっとして阪神が含まれるかも……。