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石川遼、伝説の枯れ葉。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

PROFILE

posted2008/05/21 00:00

 ボビー・ジョーンズはゴルフで年間グランドスラムを達成した唯一のプレーヤーだが(1930年に全英アマチュア、全英オープン、全米オープン、全米アマチュアに優勝した。現在、マスターズ、全米オープン、全英オープン、全米プロの制覇をグランドスラムとするのは、ジョーンズの偉業をコピーしたものだ)、彼にはそれよりもはるかに有名なエピソードがある。それゆえに、いまだにゴルフの球聖と称えられているといってもよい。

 1925年の全米オープンの第2ラウンドでのことだ。11番ホールのパー4で2打目をグリーン左のラフに外し、3打目を打とうとして9番アイアンでアドレスすると、そのはずみでボールがすこし動いた。それを見た者は誰もいなかった。同伴プレーヤーもキャディーさえも気づかなかった。ジョーンズはそのあと見事なリカバリーでパーをとった。ところが彼はアドレスしたときにボールが動いたといってみずから1罰打を加え、5と申告したのである。

 これには同伴プレーヤーばかりか競技委員までおどろいた。まったく前例のない申告だったからである。ジョーンズはその1打のためにこの全米オープンを失った。最終的にはプレーオフで負けたのだが、それがなければプレーオフをせずに単独で勝っていたのである。

 すべての人が彼の正直な行為を称賛した。すると彼はムッとした顔でこういったという。

 「あなたたちは、わたしが他人の金を盗まなかったから立派だとほめるのかね」

 これ以降ゴルフは変わったと、アメリカのライターのスティーブ・ユーバンクスは著書『オーガスタ』の中でいっている。

 「今日では当然プロもアマも自分にペナルティーを科しているが、先例をつくったのはジョーンズである。以後70年間、ゴルファーはジョーンズの厳格な基準に従って恥じない行動をしようと心がけてきたのだ」

 まったくそのとおりで、ぼくのようなヘボゴルファーの普段のゴルフでも、同じことが起きるとジョーンズの基準が思い浮かんで悩ましいことになるのである。

 これとはちがうが、先日の中日クラウンズで16歳プロの石川遼が似たようなアクシデントに見舞われた。

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