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<氷上のスピードスター> 長島圭一郎 「無我の境地を目指して」 ~特集:バンクーバーに挑む~
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byNobuyasu Yamazaki
posted2010/01/11 08:00
高3の秋に長距離から短距離に転向し、わずか3カ月で優勝。
生まれは北海道中川郡池田町。スケートが盛んな帯広市の近郊に位置し、ワインが有名な町だ。最低気温がマイナス20度になることも珍しくないこの地方で、長島は3歳でスケートを始めた。
少年時代は夏は野球、冬はスケートという毎日。池田中時代はセカンド、サード、ショートと、内野のポジションはひと通りこなしたが、「チームは全然強くないし、僕自身、守備もバッティングも両方得意じゃなかった」。加えて、「スケートも遅かった」というように、強豪校からの誘いはなかった。
池田高校に進んでからはスケート一本に絞ったが、専門は長距離だった。見た目がヒョロっとしていてか細かったため、パワーが不可欠な短距離向きであるとは思われなかったのだ。
「自分でも、長距離の方が何とか通用しそうかなと思ってやっていたんだけど、どうも違うなと。いくら練習しても全然速くならないんですよ。やっていてつらいし、センスもない。どうせなら短距離もやってみようか、という感じで、高3の秋ごろ、自分から先生に短距離をやりますと言いました」
本格的に短距離の練習を始めると、わずか3カ月ほどで、いきなり全日本ジュニア選手権の500mを制してしまった。インターハイでは1000mで優勝した。
「それで気づきましたね。あー、短距離だったのか、と(笑)。短距離の体なのに長距離をやっていたのだから、遅いに決まってますよ。僕は実際の体重に比べて細く見えるタイプなんです。筋肉が中につくので、筋肉肥大しない。でも、早いうちから短距離をやっていたとしても、通用しなかったと思います。成長期は日々身長が伸びているので、日々感覚が変わってくるわけです。それでは(短距離は)難しいですよ」
これは、いかに彼が繊細な体重移動の感覚を有しているかを示す言葉でもある。どれだけラップを落とさずに滑るかという持久力勝負の長距離に比べて、ハイスピードで競う500mは、より細やかなバランス感覚、筋感覚が要求される。それだけに、長島の体はまさに短距離向きと言える。
W杯デビュー戦で3位入賞を果たすが、その後は低迷が続いた。
日大に進学した後は完全に短距離専門の選手になった。全国的には無名だったが、学生の大会で表彰台に上がるなど、少しずつ実力を底上げしていった。そして大学4年生の12月、'04-'05年シーズンのワールドカップ開幕第1戦長野大会の初日に35秒25の好タイムをマークし、見事3位に入った。
ワールドカップでのデビューレースでいきなりの表彰台となれば、「余裕じゃん、と思った」のも無理からぬこと。けれども、3位の翌日のレースでは35秒67と大きくタイムを落として15位と沈没した。
「天狗になったけど、すぐに鼻をへし折られました」
だが、これが下げ止まりではなかった。長野大会の翌週の第2戦・中国ハルビン大会では、順位もタイムもさらに落ちた。初日は36秒23で17位、2日目は36秒33で18位。
「実力がないものだから、成績が安定しないんですよ。ワールドカップに出られるようになったのはいいけど、良かったのは最初だけで、それから一度も浮上することなくシーズンを終えました」