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<氷上のスピードスター> 長島圭一郎 「無我の境地を目指して」 ~特集:バンクーバーに挑む~
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byNobuyasu Yamazaki
posted2010/01/11 08:00
バンクーバーで最高の滑りをみせるための調整に着手。
地力がついた今シーズンは、もう一つ、別のことにも取り組んでいる。バンクーバー五輪の開催時期である2月に最高のパフォーマンスを出すための調整だ。彼の弱点の一つは、転戦を続けると体重が減り、スタミナが切れてくることである。そのため、ワールドカップに本格参戦し始めた'05-'06年シーズン以降、前半戦は好調でも後半戦で失速するというパターンが続いた。
昨シーズンも1月の世界スプリント選手権で総合2位になったのをピークに、その後は体重減少でガス欠状態になり、3月の世界距離別選手権では500m7位にとどまった。
この経験から、今シーズンは序盤戦の体重をベストより2キロ重い72キロまであえて上げてスタートしている。バンクーバー五輪本番から逆算した体調管理に着手できているのは、ベースアップに成功したからに他ならない。
「今までで一番うれしかったのは、初めて出たワールドカップで3位になった時かもしれません。スタートに立った時の緊張感も、あれが今までで一番だった。トリノ五輪は出るだけで満足していたし、緊張感ゼロだった。今は多くの大会を経験して、もう、優勝したり表彰台に上がったりしても特別な気持ちになることはない。最初のワールドカップを超えるには、バンクーバーしかないですね」
「世界でトップを争えるところまでは来ている」
これまでの長島は「僕はエリートではない」「根性では負けない」と、雑草魂を前面に出して戦う挑戦者だった。ライバルたちにマークされ、金メダルの期待を背負って臨むバンクーバーでは、どういう心境で戦うのだろうか。
「今シーズンはワールドカップの最初の4レースで表彰台に上がった選手が7人いるんです。混戦ですよ。だから、金メダル候補も何もない(笑)。僕は今、そこから一歩抜け出すためにいろいろとやっているところですけど、とにかく、世界でトップを争えるところまでは来ていると思っています。だから前回とは全然違いますね」
4年間で身に付けた実力と自信。そして、変わらないのはチャレンジャー精神。長島は、きっと何かをやってくれる。
長島圭一郎(ながしまけいいちろう)
1982年4月20日、北海道生まれ。池田高校、日大を経て、'05年日本電産サンキョーに入社、同年全日本スプリント総合優勝。'06年トリノ五輪に出場するも500mで13位、1000mで32位に終わる。同年11月W杯初優勝。今年11月までにW杯通算8勝。今年1月世界スプリント選手権で日本男子8年ぶりの総合2位。171cm、70kg