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<氷上のスピードスター> 長島圭一郎 「無我の境地を目指して」 ~特集:バンクーバーに挑む~
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byNobuyasu Yamazaki
posted2010/01/11 08:00
あれから4年、緻密な計画をもとに、あらゆる面を改良し、世界トップクラスに飛躍した。最終目標の「金」も、もう目前だ。
日の丸スピードスケート陣が成田空港を飛び立ったのは、穏やかな秋の日差しが残る10月31日のことだった。ドイツ、オランダ、カナダ、米国などを西回りに大陸を移動しながら、ワールドカップを転戦するためだ。
帰国する12月15日まで46日間に及ぶ“世界一周の旅”は、バンクーバー五輪の国別出場枠を決める真剣勝負の場であり、各国のライバルたちが動向を窺い合う情報収集の場でもある。
「プレッシャーでけっこうヤバいです。周りの人の対応が、何だかガラッと変わって。そういうのが怖いですね。プレッシャーというか、戸惑いなんですかね」
'06年のトリノ五輪にも出場し、五輪シーズン独特のムードを知っているはずなのに、長島圭一郎は苦笑いを浮かべていた。それもそのはず、トリノ五輪ではチームメートの加藤条治が金メダル候補と大いに期待される一方で、長島は代表選手の1人に過ぎなかったからだ。
あれから4年。注目度はガラリと変わった。昨シーズンは、1月にロシアで行われた世界スプリント選手権で総合2位になり、'01年の清水宏保以来8年ぶりに表彰台に上がった。ワールドカップ500mでも総合2位。
この成績を受け、スキーモーグルの上村愛子、フィギュアスケートの浅田真央と長島の3人が、日本オリンピック委員会が定める強化費優先配分の対象選手、いわゆる金メダル候補に認定されたのだ。バンクーバー五輪では韓国勢や加藤らと金メダルを争うことになるだろう。
重圧を楽しむ余裕の滑りで五輪シーズンを好発進。
ただ、「プレッシャー」を口にしつつも長島に悲壮感はない。むしろ重圧を楽しんでいるようでもある。そしてワールドカップ開幕後は、元気さが増したようだ。
11月6日、ワールドカップ開幕第1戦のドイツ・ベルリン大会初日に35秒13の好タイムをマーク。3位という上々のスタートを切った。同13日の第2戦オランダ・ヘーレンフェーン大会初日には、34秒98のリンク自己ベストをたたき出して今シーズン初優勝を飾った。開幕4レース中2レースで表彰台に上がったことで、年末に長野で行われる「代表選考レース」の前に、バンクーバー五輪代表内定が出るのではとも言われていた。
「内容的には全然良くなかった。優勝したのはラッキーだったと思う」
と控えめに感想を語ったが、ホッとしている様子が伝わる。
「ここまでバッチリ、4年計画は予定通り来ていると思います」
27歳にして初めて「金メダル候補」と呼ばれる位置に立つ男は、力強く言った。