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モーグルの新女王・上村愛子 「人は出会いで強くなれる」 ~特集:バンクーバーに挑む~
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2009/12/03 10:30
ラハテラ・コーチの指導で“考えるスキー”を。
ラハテラの指導が始まった。すると、ずっと分からなかった滑りの秘密が、少しずつ解けていく気がした。
「『日本チームはスキーが下手だなあ。まずはスキーをうまくなるぞ』っていうところからヤンネさんの指導は始まったんです。実際に教わりはじめたら、滑りの理論もだんだん分かってきたし、ヤンネさんが言っていることができるようになったら楽しいだろうなと思ったんですね。だから、『ああ、難しいなあ』と思うよりも、『やってみたい』という気持ちが強かったですね。
反復練習も昔はあんまり好きじゃなかったんですけど、今は、『こういうふうに滑るんだよ』とか、『ポジションはこれくらいだったけれどもっと下げて』と言われても、なんで指摘されているのかが理解できるし、ひとつひとつクリアするのが楽しい。ほんとうに基本的なところから技術を教えてくれました」
自分自身で考えることも習慣づいた。
「エアの教え方も、今までのコーチとヤンネさんと違うのは、選手にも考えさせようとするところですね。『自分でどう思った?』と聞いてくれるんです。
それまではコーチから言われたことをやるという流れで、自分の意見を言わないように育っていたから、最初の頃は聞かれても全然答えられなかったんです。でも、『こんな感じかなあ』と答えられるところで答えると、『あ、そういうときはこうなっているからこうなるんだよ』と、しっかり理由づけをして教えてくれる。なんだか面白かったですね」
こうしてラハテラの指導を受ける中で、上村は新しいターン技術を身につけていった。今では、各国の選手やコーチが驚嘆するほどのレベルにまで達している。
チャンピオンだってふつうの人、ならば自分にもチャンスがある!
ラハテラの存在の大きさは、技術面だけにとどまらなかった。
「コーチになったから、いつも一緒にいるじゃないですか。そうしたら、面白いところもあれば、お茶目なところもあるし、優しいところもあった。もちろん真面目だし、ヤンネさんのいろんな部分を見ることができた。
選手じゃなくなったからいろいろ話してくれるというのもあると思いますが、何より、チャンピオンって特別怖い人じゃないんだと気づいたんです。今までは、大きな大会で勝てる人っていうのは、自分の会ったことのないような強い人なんだと思っていたんですよね。でも、チャンピオンもふつうの人なんだな、スキーに対する取り組み方とかも似ているなあと感じて、だったら自分にもチャンスがあるなと思えました」
尊敬し、憧れていたチャンピオンと接することで、技術にかぎらず、多くのものを吸収することができた。
大きな大会で緊張にかられると、ラハテラから声をかけられる。
「いつもどおりにやれば大丈夫だから」
そのひとことで安心し、ふだんどおりの力を出せるようになるのだと、上村は言う。