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モーグルの新女王・上村愛子 「人は出会いで強くなれる」 ~特集:バンクーバーに挑む~
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2009/12/03 10:30
世界選手権連覇の影には二人の人物との出会いがあった。
その前の'07-'08年のシーズンには、ワールドカップ5連勝などで年間総合優勝を果たしている。それに続いての世界選手権制覇である。
ワールドカップの優勝や、世界選手権での表彰台は以前も経験している。だがこの2シーズンは、過去と比較にならないキャリア最高の成績をおさめている。
「大きな大会になると集中しきれない。弱いですね」
自身をそのように見ていた上村に変化をもたらしたのは何だったのか。それは、彼女の技術面と精神面を支える、二人の信頼できる人物との出会いだった。
世界選手権の滑りで象徴的だったのは、ミドルセクションの攻撃的な滑りもさることながら、第1エアのランディング時の対応だ。減速しようという動作もなく、ゴールヘまっすぐにスキー板を向けていたのである。他の選手とは一線を画す技術の高さが表れていたし、以前の上村のレベルからも格段にアップしていた。
上村の滑りを変えた“モーグル界のスーパースター”。
ターンが進化を遂げた大きな原因は、モーグルの日本ナショナルチーム・チーフコーチを務めるヤンネ・ラハテラによるところが大きい。
ラハテラは、'98年の長野五輪で銀メダル、'02年のソルトレイクシティ五輪では金メダルを獲得している。世界選手権やワールドカップでも数々の活躍をみせた、モーグルの世界ではまぎれもないスーパースターであり、名選手である。
そして、上村が「格好いいなあ」と憧れた選手でもあった。
「モーグルをやっている人なら、みんなが憧れる選手でしたね。でもどれだけ見ていても、どうしてああいう滑りができるのか分からなかった。自分には絶対できない滑りだと思っていました」
かといって、滑りの秘密を直接尋ねるわけにもいかなかった。
「選手の頃のヤンネさんは、私、怖かったんですよ。いつもピリピリしていて。尊敬していたからというのもあると思うんですが、『ハロー』くらいしか言えないよなあって、ずっと思ってました(笑)」
憧れの人は、トリノ五輪後に引退すると、思いもよらず、身近なところにやってきた。日本チームのコーチに就任したのである。