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モーグルの新女王・上村愛子 「人は出会いで強くなれる」 ~特集:バンクーバーに挑む~
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2009/12/03 10:30
6月に入籍。生涯のパートナーとともにバンクーバーへ。
もうひとつの出会いは3年前にさかのぼる。
トリノ五輪が終わった翌月、'06年3月のことだ。全日本スキー連盟のイベントに出席した上村は、一人の選手と同席する。アルペン・スキーヤーの皆川賢太郎である。
皆川は上村と同様、'98年の長野五輪から3大会連続で五輪出場を果たしている選手だ。トリノ五輪では、スラロームで4位の結果を残しているが、これはアルペン種目で日本人としては50年ぶりの入賞であった。
ともにスキーヤーであり、日本を代表する選手である。当然、上村は皆川のことを以前から知っていた。知ってはいたが、上村自身、もともとはアルペンの選手だったこともあり、その世界の第一人者である皆川は雲の上の存在だった。加えて、「怖そうな人だな」という印象もあって、顔をあわせても挨拶程度で、あまり話をしたことはなかった。
だが、このイベントで同席したのをきっかけに、初めてじっくりと話す機会を得た。
以来、しばしば接する中で、皆川の競技に対する考え方を知り、トレーニングへの姿勢も知ることになった。強化すべき点とそれに沿った練習を自ら考え、日々ストイックにこなす姿は、大きな刺激になった。
「一生懸命ものごとに取り組むことの大切さを知ることができました」
皆川との出会いは、上村の練習をも変えた。
それは、ラハテラの指導とともに、上村の練習への姿勢に、確実に変化を与えた。
オリンピックをはじめとする世界で戦うアスリートとして、同じ場に立ち、心の底から信頼して相談できる相手がみつかったことも、上村にとって大きな財産となった。
「自分がこうありたいと思うくらい、優しい人でした。いろいろ話ができる人。頭の中であいまいだったことも、話すことではっきりしていくんです」
6月11日、二人は入籍。お互い4度目の出場となるバンクーバー五輪へ挑むことになる。