Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
ドラガン・ストイコビッチ&アレックス・ミラー 「超」組織サッカーのススメ。
text by
西部謙司Kenji Nishibe
photograph byTsutomu Takasu
posted2008/11/06 21:02
この“自分たちのサッカー”というフレーズは、選手や監督の間で連発されているのだが、そもそも何が“自分たちのサッカー”なのか明確にわかっていて言っているのかと疑問に思うことも多々ある。しかし、ストイコビッチの「我々のスタイル」には、かなり明確な実体が伴っている。個々の選手の状況に合わせてのポジショニングが明確に決まっているということだ。そのポジショニング、動き、タイミングが、一定の意図したプレーを生む源なのだ。
「私は自分の庭しか見ていない。他人の庭に興味はありません」
これは他のチームの結果は気にしないというストイコビッチ監督のコメントだが、それに続けて、やはりこう言っている。
「常に我々のスタイルを保って、自分たちのサッカーができれば結果はついてきます」
“ピクシー”の監督だったイビチャ・オシムは、
「自分たちだけでサッカーはできない。対戦相手があるのです」
そう言っている。ストイコビッチの前任者で、ヨーロッパで評価の高いフェルホーセン監督のときは、相手によって戦い方を変えていた。ストイコビッチも選手交代や前線のシステム変更によって、対戦相手に応じたアレンジを多少はやるものの、戦術自体は全くといっていいほど変えていない。まさに「自分の庭」「我々のサッカー」に集中している。
プレシーズンの段階で、すでにストイコビッチの意図は浸透していた。ただ、中心選手の中村も半信半疑だったという。
「やりたいサッカーはわかったけど、どういう効果があるのかまでは想像できなかった」
実際、「我々のサッカー」に特別な部分は何もない。妖精と呼ばれた気まぐれな天才選手ぶりからは想像できないぐらい、ストイコビッチ監督の名古屋は、愚直なほどオーソドックスだ。ただし、Jリーグの中ではよりキメの細かい、ディテールを疎かにしない、精度の高い“普通の”サッカーになっている。
「一緒に旅に出よう」
最下位に沈むチームの監督に就任して、最初に言ったのがこの言葉だったという。ミラーはスコットランド人で、千葉に来る直前までリバプールのアシスタントコーチだった。
今季、大量に主力選手を失った千葉は、新たにヨジップ・クゼ監督を迎え、戦術的にも大きく舵を切った。それまでのオシム親子が行っていたマンマーク・ベースから、ゾーン・ベースに変えている。
ところが、新しい監督による新しい戦術は、全くモノにならなかった。ディテールが詰められておらず、90分間のどこかでほつれてしまう“なんちゃってゾーン”だった。