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フランス「レ・ミゼラブル」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2008/07/10 18:28
一方、突然チャンスを与えられたアネルカは、チーム内のヒエラルキーで若いベンゼマに先を越され、精神的に落ち込んでいた。分厚いルーマニアの守備ブロックになす術なく、72分にはゴミスに代えられてしまう。
そのゴミスも、またベンゼマに代わり入ったサミル・ナスリも、状況を打開できなかった。攻撃を放棄し、守ることだけに専念する相手に個の力で穴をあけるには、国際的な経験が不足していた。そしてチームは、彼らを生かすオートマティズムを欠いていた。フランスは、確実に勝たねばならない相手に、無得点で引き分けてしまったのだった。
初戦のスイスと引き分けた2年前に、状況はさらに類似してきた。だがあのときは、韓国とトーゴが残り試合の相手だった。今大会は……、オランダとイタリア。そのオランダ戦では、アンリがスタメンに復帰した。システムは、彼をトップに据えた4-2-3-1。リベリーがトップ下、シドニー・ゴブとフローラン・マルダが両サイドに入った。
この試合、攻撃は悪くなかった。先制点を許してから、アンリが大会初ゴールを決めるまでは、ドイツW杯以降でフランスの攻撃が最も活性化した時間帯であった。だがそれも、DFの崩壊が帳消しにしてしまう。加えて好調のゴブを下げるドメネクの不適切な選手交代が、リズム喪失に拍車をかける。
テュラムとサニョルは、スピード豊かなオランダのカウンターにまったくついていけず、パトリス・エブラもロビン・ファンペルシにいいように崩された。フランスが大きな国際大会で3点差をつけられたのは、ペレとガリンシャのブラジルに敗れた'58年のW杯準決勝以来のこと。歴史的な大敗であった。
試合後の通路で、ビエラとエブラが一触即発となるシーンを、ノルウェーのテレビが偶然映し出した。いったい何が起こったのか。ベテランと若手の融合がうまくいっていない。チーム内の雰囲気があまりよくない。噂は断片的に流れてくるが、ほとんどの練習が非公開で、過去に例を見ない報道規制が徹底している状況では、プレスも憶測に基づき原稿を作り上げるしかなかった。
もう後がない崖っぷちのイタリア戦前日、ビエラが記者会見に現れた。前日会見は、試合に出場する選手が出席するのが通例である。その見込みのないビエラが出てくるのが異例ならば、彼が一向に回復しない症状にいらだち、メディカルスタッフへの不信を露わにしたのも極めて異例であった。何かがこれまでと違っていた。