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ジャパンオリジナルで世界に挑め! 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2007/08/23 00:00

 陸上世界選手権大阪大会(8月25日~9月2日)がいよいよ開幕する。海外からは続々と選手が来日し、タイソン・ゲイとの一騎打ちが注目される男子 100mのパウエル、女子棒高跳びのイシンバエワ、男子400mのウォリナーら第一人者は異口同音に「世界新記録を狙う」と口にしている。北京五輪前年でもあり、レベルの高い争いが繰り広げられそうな雰囲気である。

 日本からは、男子45名、女子36名、合計81名と過去最大の人数が出場する。アテネ五輪金メダリスト、世界選手権で初めての金メダルを狙うハンマー投げの室伏広治を筆頭に陣容は充実し、トラック、フィールド双方で上位進出が期待できる選手がいる。「マラソン以外の種目は世界で戦うのは難しい」といわれた頃からすると隔世の感がある。

 彼らは地元開催に照準をあわせ、独自の方法を模索しレベルアップを図ってきた。

 2001年エドモントン、'05年ヘルシンキ大会において、400mハードルで銅メダルをとった為末大は、より世界のトップへ近づくために、昨年、あえてハードルに出場せず、走力を磨いてきた。ハードルを始めてから常に一定であったハードル間の歩数を減らすためだ。具体的には、終盤の8、9台目でこれまでの15歩から14歩にすることで、タイムロスを少なくしようというのだ。

 ヘルシンキではわずか2cmの差で決勝進出を逃した走り幅跳びの池田久美子は、日本女子初の7m超えを目指す。

 池田もまた、その方法を走力の向上に求めた。昨シーズン、走力の強化で助走の速度が上がり、日本記録をマークした。今季を迎えるにあたり、さらに走力の強化を図ったのである。

 '03年パリ大会の200mで銅メダルという快挙を成し遂げた末續慎吾は昨シーズン、海外のトップクラスとの差を痛感させられた。150m手前からの一瞬の「ギアチェンジ」だ。武器であるバネをどこまで鍛え上げられるか、そしてそれをいかす走法を探してきた。

 ただ、7月の日本選手権で狙い通りのタイムを出した末續はともかくとして、大会前、新たな試みが順調に成果をあげてきたかといえば、そうともいえない。

 為末は7月の欧州遠征で不調に陥り、新しい歩数による走法は、ほぼぶっつけ本番の状態で使わざるを得ない。

 池田もまた、助走速度の向上によって踏切前のタイミングが合わなくなり、苦しみ続けた。

 ただひとついえるのは、こうした独自の方法の追求の積み重ねが、マラソン以外の種目でも世界と戦えるところへ彼らを引き上げたということだ。総じて日本選手は体格に恵まれない。その中で上位を夢見るなら、リスクの大きな、ぎりぎりの勝負を挑まなければならず、1cm、1秒、いや、0.1秒という単位を縮める、あるいは伸ばすために果てしない研究と努力が重ねられている。それが陸上の奥の深さにもつながっている。

 長い日々と努力の果てに行なわれる短い勝負の中で、彼らがどのような結果を残すのか。

 壁は厚い。だが破れない壁ではない。

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