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中嶋一貴 完璧なる優等生。
text by
渕貴之Takayuki Fuchi
posted2007/10/04 00:00
「いや、そうでもないです。多少いろんなのが同居してるから。昔は結構物怖じしてたと思いますよ。人見知りもするし。たとえば知らない人にものを訊ねるのは苦手ですね。レースしてるときは違いますけど、普段は口数も多い方じゃないと思います」
注目が集まるにつれ、発言の機会は増える。いずれにせよ、サーキットでは話さなければならない。時には同じことを何度でも。
「すべて経験。気にならないですよ。それを言うことで再確認できる部分もあるし」
実にポジティブだ。
「ネガティブに考えると、けっこう果てしなく……なのでポジティブにポジティブに。ただ、レースで調子よくないときなんか悪い方に行きそうになる。そこはまだまだコントロールしなきゃならないところだと思います」
同世代のドライバーがF1に増えてきている。F1を目前にして、その心境はいかに。
「意識しなくはない。たとえばレース結果は気になります。ただ、一緒にレースをしてしまえば、ほかに何人かいるうちのひとりになる。相手が誰であれ順位を争うことに変わりはないんです。普段から冷静でいようとしているんですが、少し気持ちが出しゃばってしまうこともある。トルコのレースがそうでした。そこら辺がまだまだかな。意外と抑えられなかったです」
インタビューの目的に、彼の優等生然とした仮面を剥いでやろうという卑しい気持ちがあった。しかし、どんなに意地悪な質問を向けても彼の態度は変わらない。それは、冷たい機械を思わせるものではなく、強い目的意識を持ちながらも自然体でそれを遂行する、現代的なトップアスリートのものだ。育ちがいいとひと言で片づけられるかもしれないが、彼から感じた“柔らかな強さ”は、たとえばルイス・ハミルトンと同じ感触だった。
トルコでのGP2第8戦レース2。2番手を走行しながら、トップを走るチャンドックとの接触によりドライブスルーペナルティを受け後退。コースに復帰するがポイント圏内は遠く、自らピットインしてレースを終えた。勝てる展開だっただけに悔しかったのだろう。マシンを降りた後、穏やかな素顔からは想像できないほどムッとした表情を見せた。
「あれは半分以上、自分に向けた怒りです。ペナルティ、覚悟はしてたんですけど、なんでだよという思いもあって」
だが、レースを観る者としては、いつもすました顔でいられるより、喜怒哀楽をはっきりと見せてくれた方が嬉しい。レースはやはり人間のスポーツだと再確認できるからだ。それを伝えると、中嶋は「恥ずかしい。なかなか出てこないです」と穏やかに笑った。