佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
ホームグランプリ
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2007/10/03 00:00
ホームグランプリを迎えるドライバーはサーキット入りするまで様々なイベントに引き回されるのが常である。佐藤琢磨ほどのスタードライバーともなれば記者会見、TV局や新聞・雑誌の取材、撮影、スポンサーのプロモーション、サイン会、ファンとの交流など分刻みのスケジュールに引きずり回される。琢磨はこうしたイベントを“仕事”のひとつとして、積極的に楽しみながらこなすタイプだが、さすがに疲れが蓄積されるのではないだろうか。それより何より疲れるのはマシンの不調と、レースプログラムの消化不良。
木曜日に初めての富士スピードウェイをサーキット・ウォークした時以外、佐藤琢磨の心からの笑顔を見なかったような気がする。記者会見は笑顔で始まっても、トークが進むにつれて表情が曇り、硬くなっていくいっぽうの佐藤琢磨6回目の「日本グランプリ」だった。
最初のつまずきは試走開始の金曜日午前中。インスタレーションラップを終えてピットに戻った佐藤琢磨はすぐコクピットを離れてしまい、次にようやくコースインした時には1時間30分のセッションもすでに1時間を経過。これではセッティングするどころの話ではない。周回数は午前と午後併せて49周。午後のタイムは最下位の22位である。
「いきなりトラブルが出てしまって……。ギヤボックスとドライブシャフトの組み付けミスでグリスが飛んでしまい、スペアカーのギヤボックスに付け替えました。今日はダウンフォース・レベルの確認に時間を取られて他のセットアップが全然できなかったですね」
これが最下位のタイムしか記録できなかった理由だが、悪いことに翌土曜日の天候は一転してウエット・コンディション。霧で救急医療用ヘリコプターの視界確保が困難で飛行不能によりセッションはほとんどキャンセルされたも同然。佐藤琢磨は予選21位に終わってしまった。
「雨なのでチャンスでした。最初のアタックでトップ10に入るいい滑り出しだったので、いけるかなぁと思いましたけど、ニュータイヤに履き替えたら全然グリップしなかった」というのが、Q3敗退の理由である。
決勝は前日に輪をかけた雨で、大雨用のエクストリーム・ウェザー・タイヤを履いてのレース。
「レースを振り返るだけでも大変な内容でしたが、アクアプレーニング(水膜による接地不良)がひどく、ストレートは前のクルマの水しぶきで視界が真っ白。ブルツに追突したのでノーズ交換のためにピットイン。ここでなぜかチームは新品のエクストリーム・ウェザー・タイヤに換えたのですが、すぐにタイヤがオーバーヒートしてグリップがなくなってしまいました。あそこはユーズド(使用済み)のタイヤじゃないとダメなのに、なぜチームが新品を着けたのか、分らない……」
結局、佐藤琢磨初の富士スピードウェイでの日本グランプリは、完走した15台のうちの最下位に終った。雨のレースは佐藤琢磨が得意とするところだが、それも金曜日から手順良くマシンが仕上がっての話。下位チームは自分達の最大限の力を発揮して、上位陣の不調を待つ戦法しか取れない。敵(ライバル)云々の前に、まず己の(チーム)準備が万端でなかったことが不振の原因だろう。
残りは2戦。富士の1週間後の中国で、佐藤琢磨はどこまで態勢を立て直せるだろうか。