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中嶋一貴 完璧なる優等生。 

text by

渕貴之

渕貴之Takayuki Fuchi

PROFILE

posted2007/10/04 00:00

 目前に迫った富士の日本GP。トヨタお膝元のサーキットとなれば、どうしてもこの人のF1ドライブがあるのではないかと期待してしまう。

 中嶋一貴、22歳。日本人F1ドライバーのパイオニア・中嶋悟の息子であり、次世代日本人F1ドライバーの一番手として期待の集まる若者である。今季はDAMSからGP2に参戦するとともに、テストドライバーとしてウイリアムズに籍を置く。

 インタビューはモンツァで実施したが、折しも直前に『来季のトヨタのレギュラーシート獲得か?』のニュースが報じられた。

 「実際はなにも決まってないです。もちろん乗りたい気持ちはあるけど、どうせならいいタイミングを見つけたい。欲張りかもしれないけど、シーズン初めからしっかり準備できる状況で参戦したいです。富士でスポット参戦の可能性もなくはないのかもしれないけど、それをベストとは思わない。一刻も早くという気持ちもあるけど、難しいですね、失敗したくない気持ちもありますし。いまはまず、GP2を最後までしっかり戦いたいです」

 ひと息。その言葉は素晴らしく澱みない。やはり“血”のなせる業なのか、いま現在彼が置かれた状況に対して、気負いも緊張も感じられない。若いのにしっかりしてますね、と思わずもらしてしまう。

 「いままでの経験が大きいと思う。去年からヨーロッパに来たけど、毎年いろんな経験ができてるのでそれがあっての自分だと思います。特に今年は、F1と関わることで得たものが多い。昔からたまにF1を見に行ったり、関係者の方から話を聞いたりして、すごい世界だとは思っていました。だけど自分の居場所としては現実感がなかった。まだなんとなく不思議な感じもするけど、もう慣れました」

 父の存在をもってしてもF1は身近な世界ではなかった。ここまでステップアップしてきた過程で、はっきりとF1を目標として認識したのはいつのことか。

 「本当に現実的なものとして意識できたのは、今年テストドライバーになってからですね。TDP(トヨタ・ヤングドライバーズ・プログラム)でやってる限り道があるのは分かるんですけど、現実的なイメージとして捉えるのは難しかった。TDPにいることはすごく恵まれていて、その分責任もある。だけどヨーロッパでレースするようになってからは自分の気持ち次第でどうにでもなる。がんばるのもだらけるのも自分次第。いまの立場だからこそのプレッシャーは、自分自身が自分にかけるものだと思うんです」

 プレッシャーは自分自身でかける。世の22歳からは、なかなか出ない言葉ではないか。

 「もちろん人から言われてかかる部分もあるけど、それをどう受け止めるかにもよると思います。プレッシャーをかけすぎても、あまりいいことはない。レースは自分の力を出せればそれでいい、結果は後からついてくると考えるようにしています。それで自分にかかるプレッシャーも減らせる」

 コントロールしているのは言葉もしかり。理路整然と話すのは生来のものなのか。

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