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せめて西日本の人たちだけでも……。
プロ野球開幕を想い、被災地を歩く。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byTamon Matsuzono

posted2011/03/26 08:01

せめて西日本の人たちだけでも……。プロ野球開幕を想い、被災地を歩く。<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

昨季、地上波でのテレビ中継が減らされたにもかかわらず、そのあまりにもドラマティックな展開で野球ファンを大いに盛り上げた日本シリーズ。今年も同じような光景が見られることを願って……

すぐに被災地に行ってみた。そこで考えたこととは?

 先日、ある被災地を歩いた。年配の被災者はこう話していた。

「戦争とは違う。日本全部がやられたわけではない。西日本は生きているんだから大丈夫」

 また、ある女性にはこう言われた。

「久々に心にゆとりのある人と話をしてホッとしたわ。もう、このへんの人は、みんな自分のことでいっぱいいっぱいだから」

 いまいちばん怖いのは、被災にあっていない西日本の人々までもが必要以上に深刻になり、自粛ムードの波にのまれてしまうことなのだ。それでは共倒れになってしまう。すでにコンサート等の相次ぐ自粛で、あるイベント会社が倒産したというニュースまで伝わっている。おそらく悲劇はその会社だけにはとどまらないだろう。

 東日本が大混乱に陥っている今だからこそ、せめて、西日本の人たちには今まで通り学校や仕事場に通い、それ以外の時間は余暇を楽しんでほしい。その人たちが直接的に何かをしなくとも、西日本の人々が元気で、西日本の社会が元気であれば、それがひいては日本全体の復興につながるはずだ。

 また、東日本の人にとっても、変わらぬプロ野球界の姿は、勇気とまで言わなくとも、少なからず精神安定剤の代わりになるのではないか。

野球には野球にしかできないことがきっとあるはずだ。

 被災者の今の気持ちを慮ることはもちろん大切だ。だが、同時に大事だと思うのは、日本が一刻も早く立ち直り、被災者が元通りの生活を取り戻すために、それぞれが一生懸命活動していくことだと思う。

 そういう意味では、セ・リーグが世間の猛反発を食らいながらも自粛ムードに抗う姿勢は、やや配慮に欠けていたとはいえ、被災者のことを第一に考えるという点においては反対派と相違はなかったのだ。

 ただ、いかんせん、俺たちの言うことに従えという傲慢さがまずかった。

 あれでは伝わるものも伝わらない。

 結局、セ・リーグは二転三転したものの、4月12日、パ・リーグと同時開催するという方向で落ち着いた。

 最後にひとつ。「野球で勇気を与えたい」と発言することが、思い上がりだとか、こんなときに非常識だ、という風潮がある。これだけの惨事だ。無力感に苛まれる気持ちはわからないでもない。だが、一方的に卑下するだけということもあるまい。

 日本は世界で唯一、野球がナンバー1スポーツであり続けている国だ。こんなときだからこそ、野球には野球にしかできないことがきっとあるはずだ。

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