野ボール横丁BACK NUMBER
せめて西日本の人たちだけでも……。
プロ野球開幕を想い、被災地を歩く。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byTamon Matsuzono
posted2011/03/26 08:01
昨季、地上波でのテレビ中継が減らされたにもかかわらず、そのあまりにもドラマティックな展開で野球ファンを大いに盛り上げた日本シリーズ。今年も同じような光景が見られることを願って……
衝撃的な光景だった。
東北地方太平洋沖地震後、3日目。西日本のある地域へ出張に行き、競艇場の近く(といっても電車で十駅ほど離れていた)の喫茶店に入ったときのことだ。
震災報道が気になり、わざわざテレビがある喫茶店を見つけて入店したのだが、壁に掲げられていた大型液晶テレビは、競艇専門チャンネルに合わせられていたのだ。
しかも、その画面は、3月いっぱいはレースの開催を中止するという告知が映っているだけだった。その静止画を眺めながら、店のマスターとお客さんは「かなわんなあ……」とレースの中止をしきりにぼやいていた。そこでは大地震のことなどまるで別世界の出来事だった。
東日本と西日本で、ここまで温度差があるとは……。
その後、西日本の別の町も訪れたのだが、そこもやはり同じように日常の「陽」があふれていた。
ただ、不謹慎な、という感情は湧いてこなかった。むしろ、安堵感があった。日本全体がダメージを受けているわけではないのだ、と。ここにはまだ日常があるのだ、と。
せめて西日本だけでも平穏に野球を楽しんでほしいのだが……。
プロ野球をいつ、どのような形で開催するのか――。
この十日間あまり、プロ野球界はその問題で揺れていた。
出張先でそんな光景を目にするまでは、ダルビッシュ有の「野球人である前に人間。野球をやっていていいのかなと思う」という発言に深くうなずいていた。確かに、そんな状況ではないように思われた。
でも、競艇ファンのぼやきに耳を傾けながら、もしプロ野球が中止になったら西日本の野球ファンも心にぽっかりと穴が開いてしまうのだろうなと思った。西日本のファンは、被害の実感が希薄なぶん、東日本のファンほどには割り切れないのではあるまいか。小さい子どもなど、なおのことそうだろう。
だったら、そんな西日本のファンのためにも、一日でも早くプロ野球を開催した方がいいのではないかと思えた。つまり、当初、セ・リーグが主張していた予定通り開幕するという案は、必ずしも間違ってはいないのではないかと考えていた。
プロ野球の存在が、被災地のファンを勇気づけられるかどうかはわからない。それを開催の理由にするのにも違和感がある。しかし、プロ野球があれば、少なくとも西日本の人たちは日々の活力を維持することができる。開催理由も開幕を待ちわびているファンのためというシンプルな理由であれば納得できる。
無論、無理してまでやる必要はない。それはそれで見る人の心にも、やる人の心にも負担になる。でも、節電や開催地の問題等、いくつかの問題点をクリアすることで済むのであれば、プロ野球界の日常をいたずらに乱すのは、長い目で見た場合、むしろ復興の妨げになる気がした。