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バーレーンGP開催中止に想う……。
各国でファンから乖離し始めていたF1。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byBongarts/Getty Images
posted2011/02/23 10:30
首都マナーマから車で1時間かかる砂漠の真ん中にあるバーレーン・インターナショナル・サーキット。2004年に中東で初めてとなるF1開催を果たし、以降毎年続いている。コース上では、灼熱の暑さと砂に悩まされる
マレーシアGP、トルコGP、中国GPなどが抱える問題。
しかし、主催者が多額の開催権料を支払えば、そのツケはそれぞれの国民へ回される。
すでにオーストラリアGPを開催しているメルボルンは高すぎる開催権料に対してこれ以上の税金は投入しないと、市長がF1に対して「No」を突きつけている。
また'99年からスタートしたマレーシアGP、'05年に開始されたトルコGPはすでに国民生活から乖離したイベントとなっており、スタンドは毎年閑古鳥が鳴いている状況。GDPで日本を抜いて世界2位となった中国GPでさえ、初年度の2004年こそ20万人以上がスタンドを埋め尽くしたが、年を経るに従って空席が目立ってきている。
今回、問題となっているバーレーンの反政府運動の直接の目的は「ハリファ王室打倒」である。しかし、この運動は単なるバーレーン一国の問題では済みそうにない。それは北アフリカや中東諸国で同様のデモ活動が拡大していることからもわかる。
史上最多の年間20戦でスタートしようとしていた今年のF1が、今後再びバーレーンと同様の問題を他の国で抱えることになっても不思議はないだろう。さらに、それらの政治的混乱がいずれ解決されたとしても、休止していたF1を国民の多くが納得する形ですぐに復活開催してくれるという保証はどこにもない。
だからこそ、今回の一件を機にF1に関わる人々は、各国の国民からF1が「No」と言われないようなソフトウェアづくりを始めなければならないのではないだろうか。
F1界では過去に観戦チケットを安くするための運動もあった。
じつは一度、F1も自らの手で、新しいソフトウェアづくりを始めようとした時期があった。
それはF1が分裂の危機にあった'09年の6月のことである。
F1の各チームで構成するFOTA(フォーミュラ・ワン・チーム協会)が現在のF1の運営母体であるFIA(およびFOM)から分離して独立シリーズを立ち上げ、チケットの値段をもっと安くしたレース開催をしようという動きがあったのだ。
結局FIAとFOTAが歩み寄り、F1は分裂せず、グランプリ運営をFOMがその後も担ったため、F1観戦チケットの値段は依然として高価なまま取り残されることとなった。