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バーレーンGP開催中止に想う……。
各国でファンから乖離し始めていたF1。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byBongarts/Getty Images
posted2011/02/23 10:30
首都マナーマから車で1時間かかる砂漠の真ん中にあるバーレーン・インターナショナル・サーキット。2004年に中東で初めてとなるF1開催を果たし、以降毎年続いている。コース上では、灼熱の暑さと砂に悩まされる
2月18日、日本の外務省は、ある国への渡航に関して「渡航の是非を検討してください」と危険情報を1段階引き上げた。
その国とは、中東の島国バーレーン。2011年のF1世界選手権開幕戦の地である。
外務省によれば、バーレーンへ渡航する場合は、「その是非について慎重に検討し、情勢が更に不安定化する場合には、日程の変更を含めて十分な安全対策を講じてください」とのこと。
12チーム中、8チームがファクトリーを構えるイギリスの外務省も、2月19日に「バーレーンへの不要不急の渡航を控えるように」と渡航警告レベルを引き上げている。このような状況に陥ったのは、連日報道されているように2月中旬から始まった反政府デモが悪化の一途を辿っているためであることは言うまでもない。
そして、その余波はついにF1にも押し寄せることとなった。
今年の開幕戦バーレーンGPまですでに3週間を切り、その直前には最後の合同テストもバーレーンで行われる予定となっていたが、すべて中止となってしまったからである。バーレーンのサルマン皇太子(ハマド国王の後継者にして軍副司令官。熱烈なF1ファンとしても知られている)による声明によって、バーレーンは「国家の問題に集中する」こととなった。これによって、今季のF1開幕戦は、3月27日(日)のオーストラリアGPということに決まった。
F1に先立ち、すでに2月17日から開催される予定だったF1直下のカテゴリーであるGP2シリーズの第2戦バーレーン・ラウンドは、いったん延期の発表がなされた直後に結局、中止に追い込まれている。
FOMが進めてきたGP開催の拡大路線は限界にきているのか?
このような事態に遭遇すると、F1のように世界中を転戦するスポーツは、それぞれの国の社会情勢を抜きに語ることができないものだということを、つくづく実感させられる。それは単に「危険だから開催を見送る」とか「安全になれば再開しても良い」という自分たちの安全を考えるというレベルの話ではない。
F1という文化がヨーロッパの人々によって発明された希少なソフトウェアだとすれば、それを行う各国のグランプリ施設が非常に高価なハードウェアだったことは紛れもない事実である。ここ十数年のF1は、運営の最高責任者であるバーニー・エクレストンを中心としたFOM(フォーミュラ・ワン・マネージメント)が、F1という付加価値の高いソフトウェアを手に各国の首脳陣あるいは地域の実力者とGP開催の直接交渉を行い、F1を自国で開催できるという名誉ある権利を高価な値段で売るという拡大路線を敷いてきた。開催権料を渋るヨーロッパを離れ、豊富なオイルマネーを有する中東諸国や経済成長著しいBRICsやアジア諸国から多額の開催料を引きだそうというのが、21世紀に入ってからのF1だった。