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箱根駅伝で大バズり…ナゾの“給水おじさん”の正体は?「みんな『この人、誰?』って(笑)」東大院生ランナーに力水…65歳「八田先生」の給水秘話 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph by(L)JIJI PRESS、(R)NumberWeb

posted2025/01/22 06:00

箱根駅伝で大バズり…ナゾの“給水おじさん”の正体は?「みんな『この人、誰?』って(笑)」東大院生ランナーに力水…65歳「八田先生」の給水秘話<Number Web> photograph by (L)JIJI PRESS、(R)NumberWeb

関東学生連合チームの9区を走った東大大学院の29歳・古川大晃(左)と給水員を務めた八田秀雄教授。なぜ大学院の教授が給水役になったのだろうか?

 いよいよ、八田教授の出番だ。自然と心拍数が上がる。

「2019年に東大の学部生だった近藤秀一が1区のスタートラインに立っているのを見た時は涙が出ました。古川の場合は、熊本大学から九州大学の修士課程に進み、全日本大学駅伝も走りました。故郷の熊本城マラソンでも優勝。それでも箱根駅伝を走りたいという思いが強く、東大の大学院にやってきたわけです。

 長い道のり、長い歴史です。それを考えると、涙が出てくるんじゃないかと想像していたんですが、それよりも、とにかくボトルを古川に渡す、その仕事をやり切ろうということに集中していました」

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 古川が見える。反対車線の方に道路を横断する。そして、助走をつけながら、走り出す。

 古川がやってくる。古川の右側につき、走りを同期する。

 古川はまず水の入ったボトルをつかみ、口に含んだ。そしてもう一本、うっすら黄色がかったスポーツドリンクも飲んだ。2本用意しておいて、良かったのだ。

最後は「両腕を天に突き上げて…」

 最後に古川にかける言葉も考えていたが、そんな余裕はなかった。

「たぶん、『ファイト―!』と声を掛けたと思います。最後に両腕を天に突き上げていて、それがテレビに映っていましたが、それも記憶にありません。ああいうポーズを取ろうとは考えていませんでしたし、あれは古川に対する『心の叫び』だったと思います」

 古川が走り去り、どんどん背中が小さくなっていく。八田教授の仕事は、もう少しばかり残っていた。

「青学大の選手たちなんかは、飲んだボトルを給水員に戻しています。ただ、私は受け取って走る自信がなかったので、古川には『とにかく捨ててくれ』と話しておきました」

 古川が手放したボトルを、教授はひとりで回収した。回収する分、50mよりは少し長く走った。

 ミッション・コンプリート。

 こうして65歳の八田秀雄の「箱根駅伝」は完結した。

【次ページ】 「給水おじさん」がまさかのトレンド入り

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