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箱根駅伝で大バズり…ナゾの“給水おじさん”の正体は?「みんな『この人、誰?』って(笑)」東大院生ランナーに力水…65歳「八田先生」の給水秘話
posted2025/01/22 06:00
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
(L)JIJI PRESS、(R)NumberWeb
「給水おじさん」というワードがバズり始めたのは、1月3日午後のことだった。
国民民主党の玉木雄一郎氏も、Xにこう投稿した。
《八田先生ではないですか!》
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いったい、八田先生とは誰か?
箱根駅伝の9区、関東学生連合チームの古川大晃の給水を担当したのが、東京大学大学院の八田秀雄教授、65歳だった。
「玉木君は、東大陸上運動部の部員でしたからね」
研究室で八田教授は柔和な表情を浮かべる。スーツでもなく、白衣でもなく、ジャージ姿である。
なぜ大学院の教授が給水員に?
それにしても、今年で定年を迎える八田教授が、なぜ、古川(東大大学院博士課程4年の29歳)の給水を務めることになったのか?
「私自身、東大の学生時代は400mハードルをやっていて、いまは陸上運動部の部長を務めています。古川から話があったのは、12月11日でした。最初、自分には無理だと思いました。箱根駅伝の給水というのは、だいたい50mを9秒で走らなければいけないわけです。
私のスピードが遅ければ、古川のペースを落としてしまうことになりかねない。『いまは1キロ6分でしか走れないよ』と古川に話したら、『そうなったら、立ち止まって先生の給水を受けます』と言ってくれて……じーんと来ました。そこまで言うなら引き受けようと」
実際には、この異例の人選のウラには人員的な問題もあった。
箱根駅伝予選会に出場したチームは、本選時に運営要員として25人を出す必要がある。東大大学院はそもそも部員が少なく、給水要員を準備する余裕がないという事情もあった。
八田教授は準備を進めた。
「もともと週に1、2回は走っていましたが、ジョグの最後にダッシュを入れるようにしました。給水の途中にケガをしてしまっては元も子もありませんからね」
年末になり、順調ならば古川が走るのは9区という情報が八田教授に伝えられた。
「当日は、先頭の学校が通過するであろう1時間ほど前に集合してください、という連絡がありました。家から向かい、給水員の集合場所に行ってみると、当然のことながら学生しかいないわけです。みなさん、私のことを見て、『誰?』という顔をしていました(笑)。そりゃそうでしょう」